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ところがサイレンの音に野次馬が集まっていて、その中に秀人がいた。
私にとっては何とも間の悪い…最悪の相手…
運び出されて来るAに気付いて、秀人が駆け寄ってくる。
救急隊に状況を説明している私にも気が付き、話し終わるや否や胸ぐらを掴まれた。
「おいっ!!今度は何をやったんだ!!」
「………」
「答えろよっ!」
「…離してよ、服が伸びるでしょ?」
「お前っ……!」
「ちょっと!ちょっと!女性に乱暴は駄目ですよ!」
「っ………」
傍にいた救急隊員に止められて、仕方なく…と言った感じで手を離す秀人。
「大丈夫ですか?!」
「…はい……」
その救急隊員に救急車に同乗するか聞かれたけど、それを断り救急車を見送った。
私を睨む秀人を無視してその横を通り過ぎる。
「おい…何があったんだ?」
「…あんたに関係無いでしょ。」
「関係無いって事はないっ…!
もうAを放っておいてやれよ!」
「じゃあ、あんたも私を放っておいてよ。
マジでウザい。」
「……お前、本当に可哀想な奴だな…」
「は?」
「本当は、分かってるんじゃないのか?
Aに何かしたとしても、何にもならないって……」
「…………」
本当ムカつく…
あの時からそうだ。
秀人はいつも、私の核心を突いてくる。
「あんたに憐れんで貰わなくても大丈夫よ。
そんなにAの事が心配なら、病院に行けば?
運んで貰う所、救急隊の人に伝えたし…
あの病院だから。」
「……お前、目的は何なんだよ…?」
「目的?そんなの、あんたなら分かるんじゃないの?散々見てきたでしょ。
私の専門家さん。」
私が秀人を苦手な理由。
何でも見透かした様な、物の言い方…
本人は気付いてないみたいだけど、確実に私を追い込んでいる…
だから、今言える最大の嫌味で返したつもりだった。
「正直、もうお手上げだよ…
お前が救急車を呼んだってのも信じられないくらいだ…」
初めて弱気なところを見せた…
「人をろくでなしみたいに言わないでくれる?
最低限の事はするわよ…」
「少しは成長したのか…?」
「……さぁ?」
「俺は…
お前がこうなるまでに、何かがあったんだと思ってる…」
「へぇ……今度は私の心配?
あんたが考えてるような事は無いから、安心しなさいよ……」
本当の気持ちは知られたくない。
今ここで正直に言ってしまえれば、きっと楽なのかも知れない…
でも、それは出来なかった。
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作者名:Miyoshi | 作成日時:2021年7月11日 2時