92.本当の事は言えない ページ8
-佳織 side-
今日、ここに来ても門前払いだと思っていた。
まさか、招き入れてくれるなんて…
どう言う心境の変化？
(どこまでお人好しで偽善者なの…)
少し前から時々、Aが私と会った事を忘れていたり、今日も発言がおかしい事には気付いていたけど…
(さっきのあの表情………)
疑念が確信に変わった。
実験は成功しつつあるみたい。
兄の事を調べている時に出会った、兄の同僚の精神科のドクター。
その人が私に教えてくれた。
【どうすれば、人の記憶を無くす事が出来るのか】
(きっと、人はそれを【悪魔の囁き】と言うんだろうなぁ)
だけど、私にとっては救世主だった。
Aが私以外の人物を忘れてしまえば、仲の良かった頃に戻れるんじゃないか…
私だけを見てくれるんじゃないか…
そんな事を考えるようになり、Aがキム・ソクジン達と行動を共にするようになってから、その思いは強くなった。
大嫌いだと言っておきながら、心の中ではいつもAとの思い出が過る。
日々変わる私の気持ち…
自分でも戸惑いを覚えていた。
学生時代、本当の友達と呼べる人など一人もいなかった。
だから一人でいる事は平気だった。
顔とスタイル…外見だけを見て勝手に友達面して寄って来ては、思ってたのと違う…と離れていく。
来る者拒まず去る者追わず。
誰にも干渉せず、そうやって生きて来た。
だから就職した時、自分からAに話し掛けに行った事を今でも不思議に思う。
誰かと友達になりたいと思ったのは初めてだった。
その分、誰かに嫉妬する事も無かった私が嫉妬をして、嫌がらせもした事はなかったのにしてしまった。
初めは、人に好かれているAが憎らしいのだと…ずっとそう思っていた。
でもそうでは無いと気付いた時、言い知れない苦しみが私を襲った。
もう…関係を修復する事は不可能だと、自分でも分かっていたからだ。
BTSには、Aとは関わらない方が良いと忠告したのに…
もう、壊す事でしかAと関わる事が出来ない…そのやり方しか分からない…
自分の気持ちに気付いてから、実験が成功しつつある事を素直に喜べない今の私は、この実験が間違っていたと分かっていても、もうどうする事も出来ない状態に陥っていた…
倒れてしまったAを見下ろしながら、私は救急車を呼んだ。
病院に着けば、家族への連絡なんかはしてくれるだろうし、私は救急隊に状況だけ伝えたら帰ろう…そう思っていた。
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作者名：Miyoshi | 作成日時：2021年7月11日 2時
