3.ラッキー ページ3
*
「マナちゃんパパ。」
「だから、俺はパパじゃ……」
人の波も一段落してスーパーにはいつもの平穏が訪れた。レジを済ませて袋に購入品を詰めていれば姉の方の声がする。
「パパじゃねェって」という反論の言葉は続くことがなかった。それは彼女の差し出す物のせいで。
「……え?俺にくれんの?」
「うん、まともに取れなかったんでしょ?私たちはたくさん取れたから、わけてあげる。」
小さな少女のつぶらなその目は一体どれだけの事を見ているのだろう。あの人混みで誰もが自分の事でいっぱいになってしまうあの状況下で、俺がろくに手に入れられなかった事をこの子は見ていたのだ。
彼女の台詞を聞いて隣のカゴを見れば確かに申し分ないくらいの戦利品達が顔を揃えている。
断ろうとしたが、この幼い姉が俺の為にこの行動を取ってくれたのだと思うと、彼女の優しさを無下にする様な行動は取れなかった。
その場にしゃがみ、目線を合わせて小さな頭に手を乗せる。
「サンキュ。」
彼女の差し出したそれを素直に受け取ればどこか満足気な表情をした。数秒前まで俺の手が乗っていた頭に自身の手を乗せるその姿は年相応な小学生である。
どこか照れた様にも見えるそれを横目で見ては苦笑した。
「ハル、帰ろう。」
「うん!」
自身の体では大きいカゴを元の場所に戻した妹が幼い笑顔で返事をする。そうして姉妹は2つの袋をそれぞれ1つずつ持っては前に抱えて店を出て行こうとした。
「俺が持ってやるよ。」
そう声をかけて、2人の返事を聞く前に袋2つを姉妹から取ったのは、重そうな袋を抱える姉妹がどこか危なっかしかったからだろう。
姉妹の黒真珠の様な目が俺を見て離さない。「別に取ったりしねーよ?」と安心させるように笑っても2人は特に反応を見せない。
そして、姉妹は顔を見合わせてからもう一度俺を見ては声を揃えた。
「「ラッキー。」」
どこか微妙な気分になったのはどうしてだろうか。
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あう(プロフ) - 雪見大福さん» そうですね。心配してくれるって事はそれだけ自分の事を大切に思ってくれてるって事ですもんね。 (2021年8月3日 7時) (レス) id: 077184ce48 (このIDを非表示/違反報告)
雪見大福(プロフ) - 夢主ちゃん視点で自分の感情が動いてたので心配されるって…嬉しいですなって思いました (2021年8月2日 21時) (レス) id: 4031fb98ab (このIDを非表示/違反報告)
あう(プロフ) - 紅さん» 更新を…ずっと待ってます…だと!?えー、嬉し(デレ)作品も気に入っていただけたようでありがたい限りです。頑張ります!頑張っちゃいますッ!! (2021年8月1日 22時) (レス) id: 077184ce48 (このIDを非表示/違反報告)
紅 - この作品が好きです。更新ずっとまっています。応援してます。がんばってください (2021年8月1日 22時) (レス) id: 15d4b06566 (このIDを非表示/違反報告)
あう(プロフ) - kanraiさん» ありがとうございます!とても励みになります!! (2021年7月30日 22時) (レス) id: 077184ce48 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あう | 作成日時:2021年7月27日 17時