あなたと戸締まり (ページ5)

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Aは立ち漕ぎで山に向かう。私たちは古いコンクリートで固められた山道に入った。
雑草の中で自転車を停め、〈立ち入り禁止〉のバリケードをまたぐ。
ほとんど獣道同然の薄暗い細道を早足で登っていく。

…あれ、一限目の授業にはもう間に合わないじゃん。山を登りきり温泉鄉が見えたところで、私は息を吐きながらそう思った。がAはそんな事も気にせずあの男の人を探している。

この場所は私たちの通う高校のある町の中心部と比べてもここの廃墟の方がずっと物に溢れている。
『あのー、すみませんー！』

それなのに、人の姿だけがない。いつしかお湯が涸れ、お金が涸れ、人が涸れてしまったのだ。

陽の光が廃墟をポップに照らしているはずなのにちょっと不気味だ。
私たちはひび割れた石畳を歩きながらAが必要以上に大声を上げる

「いますかー、イケメンの人ぉーっ！」ほかに言いようがない。

小さな石橋を渡り、かつてのリゾートの中心施設だったらしい廃ホテルへと向かう。円形のコンクリート建築で、周囲の廃屋に比べてひときわ大きく目立っている。

「おじゃましまーす…」広々としたホテルのロビーに、私たちは足を踏み入れる。

『こんにちはー！ねえ、いますかーっ！』当たりを見回しながら薄暗い廊下を歩く。