トリガー ページ17
虫の知らせ、とはよく言ったものだ。
人間は良くないことが起こる時、なんとなくその予兆を感じることができる。今日は夢見が良かったはずなんだけどな。
「A様、当主様がお呼びです」
支度を終えたばかりの私に、使用人はそう言葉をかけたのだった。父が私を呼び出すことなど滅多にない。あるとすればお咎めか、お酌をする時くらいだろう。
「わかりました。すぐに向かいます」
理由がどうであれ、私は指示に従うのみ。使用人が去っていったのを確認した後、急ぎ足で廊下を進み、父の部屋へとやってきた。
「…父上、Aです」
「入れ」
短い返事が戻ってきた後、ゆっくりと襖を開けて中に入った。広い座敷の奥に腰を据え、酒の入った瓢箪に口をつける父の姿が見える。
「まぁそう気を張るな。こっちへ来い」
口角を上げて手招きをする父。静かに襖を閉めた後、真っ直ぐ父の元へと歩み寄った。父は再び酒を口に含み、それを飲み込んだ後私に声をかけた。
「調子はどうだ」
「はい、特に変わりありません」
こうして面と向かって話すのはいつぶりだろうか。私の性格故に、あまり他人に興味を示さない父だからこそ若干の親しみやすさのようなものを感じる。
「なぜお前を呼び出したと思う?」
唐突にそう投げかけられ、一瞬息が詰まったような感覚に陥った。
「…わかりません」
素直に答えると、父はいつになく真剣な表情をしていた。おもむろに口を開く父から、私にとって想定外の言葉が出てきた。
「お前も今年で20になる。家を出て独り立ちしたからとて、お前を咎めることはせん」
その言葉に、思わず目を見開いた。いや、確かに私をこの家に縛り付けている張本人は直哉兄様なのだが、てっきり私は、父が呪術師が禪院家を離れることを嫌がっていると思っていた。
そんな私の気持ちを汲み取ってか、父は口角を上げて笑った。
「俺は嘘は言わんぞ。まぁどうするかはお前次第だがな」
話はそれだけだ、と言って再び酒を口にする父。これ以上この場にいる必要がないため、失礼しますと言って踵を返した。
「_____あの女には似てないな」
父のその声は、私に届くことなく宙に消えた。
私は、決断しなければいけない。
直哉兄様と向き合って、禪院家を出る意思を伝えなければ。
そんな感情とは裏腹に、無意識下で私は怯えていた。足が竦んで、その場から動けなかった。
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アキ(プロフ) - えもう最高すぎます……。続き楽しみにしてます😭💕💕 (2022年10月1日 10時) (レス) @page24 id: 011262e667 (このIDを非表示/違反報告)
若葉 - 最高です❗️ こうゆうのを待ってました‼️ (2022年8月11日 12時) (レス) id: 6c9eae5177 (このIDを非表示/違反報告)
えむ(プロフ) - うわああめっちゃすきですこれ!!!更新止まってるみたいなのでよければ再開してほしいです(T_T) (2022年7月23日 18時) (レス) @page24 id: 44246302dc (このIDを非表示/違反報告)
ベリーショート(プロフ) - ミリカんさん» ありがとうございます!ゆっくりですが頑張ります! (2022年4月23日 16時) (レス) id: 2d5afa7553 (このIDを非表示/違反報告)
ミリカん - 最高に面白いです!!更新楽しみにしてます!! (2022年3月22日 3時) (レス) id: 17b40665d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ベリーショート | 作成日時:2022年1月5日 23時