月が綺麗ですね(1)【石橋遼大】 (ページ41)

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A「なんですか？これ」

「時計です。

　前から欲しかったって聞いたので。

　邪魔だったら、捨てるなり売るなりしてください」

都築から聞いた。

Aさんは、腕時計が欲しいそうな。

一つの腕時計を、憧れのような目で見ていたと。

現物を見たら、買えないほどではなかったので、

思い切ってしまった。

A「欲しかったやつ…え、いいんですか？」

「もちろんです、

　今日のお礼だと思って、受け取ってください。

　お返しはいりません」

A「あ…ありがとうございます……」

明らかにAさんの顔が晴れた。

喜んでくれたみたいで良かった。

この後で、僕は頑張らなければいけない。

Aさんの今日一番を、この時計にしてはいけない。

「……頑張らなきゃ」

A「え、なんか言いました？」

「あ、いえ、行きましょうか」

今日の一番を、僕にするために。

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