六 ページ7
驚いた、目を疑った。
心臓がうるさい。
目の前で接客してくれる彼女は”A”ではない。
最初は本人だと思って、
思わず名前を呼んでしまったが、
よく見ると似ているだけで本人ではない。
会ってすぐに知らない人の名前を呼ばれ、
さぞ驚いただろうし、気持ちが悪かったと思う。
ましてや、自分はマスクをつけて顔が見えないようにしているんだ。
でも、彼女は特に気にせず、きっといつも通りに接客をしてくれた。
彼女の声が心地よかった。
ここにいると、”A”がそばにいてくれる気がする。
不思議な気分だった。
『お待たせしました。アイスココアです。』
目の前に置かれたグラスは、海のように綺麗な青で、不思議な模様をしていた。
テヒョン「このグラス、綺麗ですね。」
『わぁ！ありがとうございます！
これ、日本の沖縄から仕入れたグラスで琉球グラスっていうんです。
沖縄ってご存知ですか？』
テヒョン「ああ、聞いたことあります。海が綺麗なところですよね？」
『そうです！昔、旅行で行ったことがあって、その時に見つけたのでぜひカフェで使おうと。
沖縄の海にいる熱帯魚もすごく綺麗で可愛いんですよ！』
顔を明るくさせて、グラスと熱帯魚について語る彼女から目が離せなかった。
あまりにも”A”に似ていたから。
しかし、笑っていた彼女はすぐに真顔になって、考え込むような表情で俺を見て質問をした。
『あの、、つかぬことお伺いしますが、、
どこかでお会いしたことありますか？？？』
テヒョン「、、、え？」
『いや、さっき、私の名前を言われたので、どこかでお会いしたことあるのかなって、、
マスクをされてるので、あまりお顔が分からなくて、、』
あはは、と笑いながら話す彼女に俺は戸惑いを隠せなかった。
テヒョン「、、、Aさんですか？」
『ああ、はい、ソン・Aです。
、、やはりご存知なんですね。
すみません。私は覚えがなくて。
お名前をお伺いしてもいいですか？』
彼女が発した苗字は自分が知っている彼女の苗字と違っていた。
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作者名：うなす | 作成日時：2021年4月7日 1時
