木蘭の涙 (ページ5)

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『んー、もう春だなぁ』

朝起きて庭を見渡すと
一面が春を物語ってるように色付いてた

空に向かって大きく伸びをすると
優しい花の香りがふわりと漂ってくる

『あ、この花綺麗……』

見上げた木々にはピンクや黄色の蕾が沢山開いていた

「今日は慎太郎忙しそうっすねー」

ふと、後ろからそんな言葉が聞こえる

そういえばまだ慎太郎の姿を見てないな

『え、慎太郎何してんの？』

振り返ってそう言うと、
ゆっくりと私の隣に来て
同じように花が咲いた木を見上げるそいつ

「なんか新しい人来るみたいでそっち行ってます」

彼もまたここに使える一人
ちょっと言葉遣いが緩いけど
意外と真面目な奴

『……樹さー、結婚してるよね？』

「はい、それがどうかしましたか？」

確か父上が紹介したんだったな、
なんて、何年か前のことを思い出す

『 " 愛しい " ってどんなん？』

「………っ！！」

とてつもなく驚いて目を見開く樹

…………の、後に大爆笑

こんな事聞いたらそら誰でもビックリするか…

……でも、なかなか失礼な奴だ

「お嬢！どうしたんですか！(笑)」

『………結婚する前に知りたかったの』

恥を晒しただけな気がして、
少し不貞腐れたようにそう言うと、
笑っていた樹は優しく微笑む

「ホントに好きだと思える人に出会えたら嫌でも分かりますよ」

そう言ってポン、と頭を撫でられる

主従関係でこの行動はどうかと思うが
歳は樹の方が上だし、
お兄ちゃんのようで……

だからこの行動を咎めたことはない

父上がいたら出来ないことだけどね

『………京本さんと結婚したら、分かる？』

「お嬢次第です。ただ…」

『何？』

一瞬、樹の顔が曇ったのが分かった

「いや…愛しいと思える人に出会えたら幸せですね」

最後の樹の言葉が引っ掛かった

幸せ、か…

でも、結婚がそんなに幸せなものには見えなかった

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