木蘭の涙 (ページ37)

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鼻歌まじりで足取りが軽い私は、今日も町へ出かける

" 京本家の奥様 " という称号のお陰なのか、
町へ出れば皆が振り返った

あれから、あの河原へ行こうとするたび、
高地がついてくるか、静止が入る

……ついてきたら…、河原には行けないのに……

そんな考えが一瞬頭をよぎったけど
慌てて頭を振って、それを飛ばす

高地は不思議そうに見ていたけど
追求することはなくて、ほんのちょっと安堵する

少しの買い物を済ませ、適当にフラフラと歩く

ふと前を見ると、懐かしい後ろ姿が見えた気がした

…ほく、と？

気付いた時には走り出していた

一心不乱にその背中を追い掛ける

人込みを駆け抜け、遠い後ろ姿まで
必死に近づいた

『あの…っ』

「はい？」

腕を掴んで振り向いたその人は、

『あ……っ、ごめんなさい…人違いでした』

期待を胸に膨らませた微かな希望の光は脆く消え去った

「奥様……っ」

急に走りだした私を後から追い掛けるようにして
高地が駆け寄る

「どうかなさいましたか？！」

『あ、ううん………何でもないの！』

少し慌てる高地に、
無理を装って笑ってみせた

……随分感情を偽る事に慣れてきたな

「奥様、私本日少し用がありまして、
そろそろ行かないといけないのですが………」

高地がボーッと遠くを眺める私にそう言う

『あ、そう？私は大丈夫だからいいよ』

「でも…奥様を一人にさせるわけには……」

『大丈夫！子供じゃないんだからぁー』

いつもより強めにそう言うと、
高地は諦めたように一人で帰る事を承諾した

……きっとこれは精一杯の高地の優しさだったのかもしれない

私が何に向かって走ったのか、

誰を期待して声をかけたのか、

そして恐らくこれから向かう先も、

会う事になるであろう相手も、

高地には全て分かっていたのだろうから

「旦那様、たった一回ですので大丈夫だと思います…」

誰にも聞こえないような声で高地はそう呟いて、
ゆっくりと私の傍から去っていった

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