木蘭の涙 (ページ36)

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「……あー、アレだなー
お嬢が嫁がれてからホント静かになっちゃったなー」

いつもお嬢が作業をする俺を眺めていたあの縁側で
樹と足を投げ出して、何処か寂し気な表情を伺わせる

二人共また心に穴が開いてしまったような感覚で
日々を過ごしていた

「ホントになー、……なんか今でもお嬢が
笑って話し掛けてきたりしそうだし…」

すっかり脱け殻のようになったこの家では、
こんな会話がよく繰り広げられていた

「…北斗、あれからお嬢に会ったのかな…」

樹がポツリと口から零す

この言葉を口にしたのは、
お嬢が嫁いでから初めての事だった

二人とも口にしてはいけないような……
そんな暗黙の了解とも言える気がしていたからだった

「北斗は、まだお嬢の事想ってるからな…」

全てを見据える二人からしたら、
お嬢が嫁いでからの姿は、切なすぎるものだった

「……たぶんな、京本家の側近の奴が気付いてる」

俺の言葉に勢いよく振り返った樹

「……高地、だったっけ…？」

樹の何とも言えない表情に俺は静かに頷く

「いや、何も起こらないと言う事は、
高地がお嬢と、北斗を会わせないようにしてるんだ
……高地もきっと最悪の事態を招きたくないんだろ」

「でも、もし…、もし二人が会ってしまったら……」

そこまで言うと、樹は言葉に詰まる

「………そうだな」

不安の色が二人に反映した

最悪の結末にだけはならないで欲しい

俺はただただ祈るしか出来なかった

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