木蘭の涙 (ページ35)

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「…A、」

川辺から空を見上げながらそう呟いたのは、北斗だった

一体どれ程の時が過ぎれば忘れられるのだろうか

北斗の胸の内にもまたAしかいなかった

誰にも告げる事の出来ないこの恋は、
一層心苦しさを深くさせる

「…お嬢さん、僕は…貴女を抱いてしまって、
少し後悔してるんです………」

「…温もりが、消えないんですよ……」

涙が北斗の頬を伝う

愛を知ってしまった丁度次の日、二人は切り裂かれた

きっとあの夜は無かった方が良かったのかもしれない

身体を重ね、お互いの温度を刻み付け合った

忘れる事のないように何度も何度も深く

そして、それは予想を超える程に熱く記憶された

胸が裂けるような痛みと共に……

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『……会いたい』

「奥様、お出かけですか？」

少しおめかし気味の私に高地が声をかける

『あ、ちょっと川岸まで行こうかなーって…』

「今日はお止めになった方が宜しいですよ
あの辺りはただ今危険でして……、」

『今日も？じゃあまた今度にするね』

「はい、そうなさってください
奥様に何かあっては大変ですので」

『もうー大袈裟な、』

そう言ってクスクスと笑って奥の部屋へと戻った

『今日も逢えそうな気がしたのにな…』

私の予想は虚しくも正しかった

寝転がってただ会いたい、と呟く私は
高地の言葉に疑いを持つ事など全く無かったのだ

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「……そうか。ありがとう。」

「いえ、旦那様の為ですから…当たり前の事です」

「でも、いつかAもおかしいと思い始めるんじゃない？」

「そうですね…、奥様が出かけようとする日は
必ずと言っていい程松村も同じように……」

Aと北斗の間には立ちはだかる大きな壁

しかし高地は、通じ合う二人の仲に
それさえも超えるような愛が存在する事を
感じ始めていたのだ

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