木蘭の涙 (ページ33)

今日:7 hit、昨日:24 hit、合計:45,533 hit

. ページ33

.

「では、次に松村から…」

父がそう言うと、ひゅ、と息が詰まる

大きく音を立てる鼓動を誤魔化すように
持っていたハンカチをぎゅ、っと握りしめる

ゆっくりと顔を上げた北斗と、視線が絡み、
その姿はゆらりと揺れる

零れてはいけないそれをただ我慢する

それを見てか、北斗は少し瞳を揺らした気がした

小さく息を吐いた北斗は話しだした

「おめでとうございます
お嬢さんの綺麗な花嫁姿が見れて幸せです
短い間ではありましたけれど、きっと忘れる事はありません

…どうか幸せになってください…………っ」

北斗の言葉は、私の心の奥底まで
深く、沈んでいった

綺麗に並べられた言葉の裏には無数の愛が込められ、
切なさと共に私の元へ届いた

.

.

結婚式も無事終わり、着いた先は慣れない家の一室

そはこにぽつん、とただ一人

『…っ……』

流す事すら許されなかった涙が、何か切れたように溢れだす

『北斗…、…愛してるよ…』

私は、首筋に刻み込まれた愛の痣をなぞっては静かに囁いた

.

その夜、私は京本さんのものになった

身体を重ねれば忘れられる…

そんなわけないよ

身体が北斗の温もりを覚えてる

溶け合う肌の熱い感覚がまだ残ってるの…

お願い、

この痣だけは消さないで

他は何処だって汚されても構わないから、

北斗とのたった一つの印を、

消さないで……

.