木蘭の涙 (ページ30)

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泣き疲れて眠ったお嬢に薄手の毛布をかけて
部屋を出る

向かった先は樹と俺の相部屋

部屋に入ると窓辺に頬杖ついて
外を眺めてる

春先とはいえ、時折入る風が生温くて
近くにあったうちわで
ゆっくりと自分を仰いだ

「なんで出会ったんだろな…」

そう呟いたのは樹だった

「え？」

「お嬢と北斗………一緒にいれたの、短すぎない…？」

樹は自分の事のように悲痛な想いを滲み出し
軽く拳で自分の膝を殴った

北斗が来てからお嬢には笑顔が絶えなかった

「お嬢の笑顔が、好きだった…

北斗が来てから恋を知って、
どんどん輝いていくお嬢の笑顔が……

二人でよく縁側に並んでただろ？

あれ見てると、なんか幸せな気分になったんだよなぁ

ホントに愛し合ってるのに…」

涙と共に溢れる樹の想いを
俺は黙って頷きながら聞いていた

俺もまた同じように思っていたのは、
樹にも分かっていただろう

悲しみに暮れるも、所詮太刀打ちなど出来るはずの無い壁

迫り来る式の日まで二日という時だった

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「とうとう明日だな。準備は進んでるか？」

「はい」

『私も、あとは明日を待つばかりです』

父の前に並ばされた京本さんと私の式は
いよいよ明日に控えていた

「いよいよですね…」

二人きりになった部屋で京本さんがそう言う

偽りの笑顔に迷いも無くなった私は
今日も無邪気に笑顔を向ける

『……京本さん…』

「…？」

『これから、宜しくお願いしますね…』

そう言って私は京本さんの腕の中へするりと入り込む

そして、初めて唇を重ねた…

唇の感触が北斗を思い出させる

あの何度も重ねた熱い口付けが脳裏を駆け巡った

『………愛して、ます…』

私は北斗への溢れる想いと涙を
京本さんに向ける偽りの愛の言葉で誤魔化した

それは綺麗な満月の夜だった

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