木蘭の涙 (ページ29)

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『んー、これいるかなぁ？』

「お嬢、これこっち詰めときますよ？」

その日、私の家では慌ただしく引越しの準備が行われていた

そう、結婚する日はもう三日後にまでも迫っていたのだ

なんやかんやと理由をつけて
先延ばしにしていた荷物整理を、
渋々始める私の隣では慎太郎が同じように手伝う

無理に明るく振る舞おうとすればするほど、
慎太郎の笑顔がぎこちなくなって心苦しかった

『慎太郎、私がいなくなったら寂しいー？』

なるべく明るく、そう思えば思うほど
声は震える

「それは、まぁずっと傍で見てきましたからね
でも祝福の場でそんな事を言っていては駄目ですから」

手を止めず、こちらを向くこともなく
慎太郎はそう言った

『そうかぁ…私寂しいよ、慎太郎と離れるの』

「これからは京本さんがいますよ」

慎太郎の言葉に少し笑って、うんと言った

「…お嬢…？」

突如溢れだして頬を濡らした雫に
慎太郎は驚き、傍に駆け寄ってきた

『…あんな言葉、欲しくなかった………っ
幸せになってください、なんて…言ってほしくなかった……っ』

「お嬢………」

ぼろぼろと零れていくそれは
慎太郎が優しく背中を撫でるせいか、
余計に溢れ出て、纏めていた荷物を濡らしていった

あの日以来北斗とは会っていない

残された時間を共に過ごしてしまえば
きっと離れられなくなると思ったから

慎太郎はただひたすら涙を流し続ける
私をただただ黙って、背中を摩ってくれた

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