木蘭の涙 (ページ27)

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「……そうですか、心より御祝福申し上げます」

真っ先に旦那様から結婚の話を聞いたのは俺だった

複雑な表情を浮かべてお嬢の元へ向かった

見つけたAの姿は、いつものように縁側に座り、
ただただぼーっと木を眺めているだけだった

「お嬢、」

『……ん？』

振り返ったお嬢は、視線が合っているようで
全く合っていない

「日取り決まったんですね、おめでとうございます」

『…………慎太郎、』

今にも泣きだしそうになるお嬢は、
俺に悟られまいと必死に笑顔を繕うとはするが、
ついには一筋の涙を零した

「お嬢、」

『慎太郎…、…私……っ』

「…北斗、ですか…」

そう言った言葉に、目を丸くして驚く

そのすぐ後、やっぱり、と言ったのと同時に
零れ落ちた雫

あぁ、遅かったか、そう思った

二人がいつの間にかこんなに惹かれあっているとは
思ってもみなかった

『……松村さんには、まだ言わないで…？』

精一杯のお嬢の願い

痛む心をそのままに、それを聞き入れた

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私に残された時間はわずかしかなかった

二人が愛し合って、経た時間は数える程しかない

……北斗には日取りを伝えたくなかった…

その日、北斗とあの川の近くの丘に寄り添って肩を並べていた

『このまま時間が止まればいいのにねー…』

「え…？」

『そしたら一緒にいれるのに』

浮かない顔で言ったのか、私の顔を見て
北斗は優しく笑いかけ、強く手を握り返した

「あ、そうだ…」

何かを思い出したように北斗は懐を探る

「A、後ろ向いて？」

首を傾げながら、言われた通りに後ろを向くと、
北斗が後ろから何かを髪に挿した

「昨日、夜店で見つけたんだ」

手鏡を私の手に乗せて、そう言った

なんだろ、そう思いながら髪を見ると

『…これ……っ』

私の髪には、昨日見た赤い花の髪飾り

そう、木蓮の…

「…いつまでも傍にいるから」

北斗が後ろから抱き締めると、
暖かい温もりが身体を巡る

込み上げるものが視界をゆらゆらと歪ませる

震える声で出したありがとう、と共に一筋の雫が零れた

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