木蘭の涙 (ページ23)

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町には江戸囃子の音が絶え間なく流れていた

『見てー？ほら！！』

「お嬢、綺麗ですねー、
その格好では走り回らないでくださいよ」

お祭りの日、いつもより上等な浴衣を身に纏ったAは
嬉しさを隠せずに慎太郎の前で回ってみせた

躍る心は、早く北斗にその姿を見せたい

ただその一心だった

『ねー、松村さんは？』

「さっき見ましたけどね？」

『何処に居るんだろう？…早く見せたいな…』

慎太郎の目には嬉しそうにそう呟くAの姿が写る

慎太郎が二人の事を知らないはずなど無かった

それは長年Aを見てきたからだろう

柔らかく笑うようになったAを
どこか複雑な表情で見ていた

…………樹とサヤカに与えられた残酷な現実を
一番近くで見てきたのも慎太郎だった

Aと北斗を傍で見ていながら、
自分にはどうする事も出来ない…………
無力な自分に悔しい想いを抱えていた

「お嬢…………」

『んー？』

「そんなに北斗に見せたいんですか？」

含み笑いを浮かべながらそう聞くと、
Aは躊躇いもなく笑顔で頷いた

「お嬢には、幸せになってほしかった………」

慎太郎は無邪気に笑うAの遠い後ろ姿に向かって呟いた

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