木蘭の涙 (ページ22)

今日:21 hit、昨日:24 hit、合計:45,547 hit

. ページ22

.

「A」

『あ、父上………』

少し足早にやって来た父上は
私の格好を見るなり、驚く

「一体その格好はどうした？」

『あの、川にハマってしまいまして…ごめんなさい』

「僕が付いていながらすみませんでした…！」

父上の放つピリ、とした空気に
二人で頭を下げる

「…いいから早く着替えて来なさい
京本さんが待っておられるから」

それだけ言うと、すぐに踵を返し、
部屋の奥へと行ってしまった

少しほっ、と胸を撫で下ろし、
北斗と私は慌ただしく着替えに向かった

『北斗…？』

部屋に戻る途中、後ろにいる北斗を呼ぶと、
少し足を早めて、隣を歩く

「何ですか？…じゃなくて、何？」

『ふふ、
………また一緒に行こうね』

言い直す北斗に軽く笑い、そう約束した

…………その光景を、

京本さんが見ていることも知らずに

.

「高地……」

すぐ後ろに立つ、高地に声をかける

「……何ですか？」

何を聞かれるか、きっと高地は気付いているだろう

「…Aさんの、隣にいた奴は誰？」

様子を伺っていた大我は、北斗の存在に気付いてしまっていた

「あの方は、椎名家に仕える松村という者と聞いておりますが…」

「………そうか、」

大我の目には、見た事もないAの笑顔が写っていた

松村という男にはあんな笑顔を向けるAを見て、
胸が傷んだのか、眉を寄せて苦しそうにため息を零す

「高地、」

「はい？」

「………やっぱり、縁談の話…早めてくれるか？」

.