木蘭の涙 (ページ17)

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縁談話は何故か延期になっていた

きっと上の者達の間で
何かスムーズにいかない事情でもあるのだろう

かえって好都合、

……とは決して言える状況ではないけれど

Aにとって、北斗は初恋だった

切ない想い、愛しい気持ち、
暖かい人肌、優しい口付け、

全部が初めての、淡い経験

けれど、この先に明るい光は見えては来ない

姉の事があってか、
自分が犯してしまった事の重大さを
ひしひしと肌で感じていたのだ

来る日も来る日も、想いを巡らせては自分を責めた

Aは、あの日以来、
北斗と顔を合わせる事すら出来なかった

……きっと、取り返しのつかないことになるのは
経験したことがなくても薄々感じていたから

『ねぇ……なんでお姉ちゃん、帰したの？』

しばらく滞在したサヤカは、自分の夫の元へ帰った

あれほどの涙を流した姉が、
また愛する人から離れていったのだ

「僕には何も出来ませんから」

寂しそうな笑みを浮かべる樹の選択は、残酷にも正しい

サヤカがあの日心中を計ろうとした事を、Aは知らない

「愛してるから、生きて欲しかったんです……」

Aには聞こえない程小さく、そう呟いた

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