両思い。【磯貝悠馬】Part2 (ページ32)

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両思い103日目ページ32

「どうして助けないの、烏間先生！！」

いつも優しくて人に怒鳴ることなんか無かった陽菜乃ちゃん。その彼女が今、一生懸命に悲痛な声で訴えかけている。

『イリーナは彼女なりに結果を求めて死神と手を組んだ。一人前のプロならば自己責任だ』

烏間先生は優しい。だからこそ、私達の命を助けることを最優先に動いてくれている。

しかし同時に、烏間先生は厳しい。大人の、プロの殺し屋であるビッチ先生。彼女が自分の意思で動いたのなら、烏間先生はそれを正面から受けいれ敵として動く。

非道な人間だからじゃない。誠実な烏間先生だからこその答えだった。

……けれど、私達みたいなお子様の中学生はそんなの理解できないから。

「プロだとかどうでもいいよ！15の私がなんだけど……ビッチ先生、まだ21だよ！」

烏間先生がぐっと息を飲むのが聞こえる。静かな声で陽菜乃ちゃんは続けた。

「多分、安心の無い環境の中で育ったから、ビッチ先生はさ、大人になる途中で、大人の欠片をいくつか拾い忘れたんだよ」

誰よりも烏間先生を慕って、好意を示していた陽菜乃ちゃん。いつだったかビッチ先生に嫉妬して悔しそうにしていた時もあった。それでも、そんな彼女が懸命に紡ぐ言葉にはなんとも言えない説得力を感じて。

きっと烏間先生も、陽菜乃ちゃんの気持ちにも気づいていたんだと思う。だからこそ、こうやって黙って話を聞いているんだ。

「……だからさ、助けてあげて、烏間先生。私達生徒が間違えた時も、許してくれるように」

21歳というのは、世間で言えば立派な大人。
だけどまだまだ心には幼い部分が残っている。それは例えば、なんでもない普通の大学生が何か間違いをしてしまった時のように。学生と大人。同じ年齢でも、それだけの違いで世間の見方も変わってくる。

幼子の時から血の中で暮らしてきたビッチ先生には、大人のなり方を教えてくれる人がいなかったんだ。

「お願い、烏間先生」

涙混じりの声が、弱々しく響く。聞こえてくる音から、烏間先生が困惑したように手を止めたのがわかった。暫くの沈黙が流れ、誰もが何も言えずに黙り込む。

数分後、烏間先生は不意にトランシーバーをどこかへ起き歩き出した。

「烏間先生……？」

遠くなる足音に、不安を覚える。
だけど、そんな心配はいらなかったようで。

「……さっさと出てこい。重いものは、背負ってやる……！」

石がこすれる音と、微かに聞こえたその声に。皆が安堵して笑いあった。