両思い。【磯貝悠馬】Part2 (ページ19)

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両思い88日目ページ19

奇妙な空気に包まれた教室に、気持ち悪ささえも感じる。ただただ呆気に取られたように見つめることしか出来ない私達を前に、男…いや、死神は続けた。

「花はその美しさにより人間の警戒心を打ち消し、人の心を開きます。渚君、君達に言ったようにね。

でも、花が美しく芳しく進化してきた本来の目的は…」

ピコン、小さな電子音が死神の話を遮った。律が連絡を受け取った際に流れる音。聞きなれた音でさえ今はどこか遠くに感じてしまう。

「律さん、送った画像を表示して」

険しい表情の律の姿がモザイクがかかったように画面から消える。そして映ったのは

「…虫をおびき寄せる為のものです」

「「…！！ビッチ先生…！！」」

手首と足をロープで頑丈に縛られ、口も塞がれどこかの暗所に倒れ込むビッチ先生の姿。瞳は硬く閉じられ、まるで気を失っているように脱力している。

悲しい声が、彼女の名前を叫んだ。

「手短に言います。彼女の命を守りたければ先生方には決して言わず、君達全員で僕が指定する場所に来なさい。着たくなければこなくていいよ。その時は、彼女の方を君達に届けます。全員に平等に行き渡る様に小分けにして」

黒板に書かれたビッチ先生の等身の絵。それに29等分になるよう白いチョークで切り込みが刻み込まれる。相変わらず、死神は笑顔だった。

「そして多分次の花は…君達の内の誰かにするでしょう」

とても不気味だった。目の前の男が、どんなに頭の狂ったことを喋っているのか、どんなに恐ろしいのかは分かっている。それなのに、脳が追いついていない。

…警戒することが出来ない。ただ見つめる事しか出来ない。

「おうおう兄ちゃん。別に俺らは助ける義理はねぇんだぜ、あんな高飛車ビッチ。第一、ここで俺らにボコられるとは考えなかったか？誘拐犯」

まるでいつもの態度と変わらないように、寺坂君が詰め寄る。だけどその額には脂汗が滲んでいて、必死に取り繕っているのが丸わかりだった。

「不正解です、寺坂君。それらは全部間違っています。君達は自分達で思っている以上に彼女が好きだ。そして、人間が死神を刈取ることなど出来しない」

寺坂君を嘲笑するように一瞥し、1度置いた花束を手に取る。死神が乱暴に投げ捨てれば、白い花弁が竜巻のように宙を舞った。急な突風に顔を背けたその隙に

「恐れるなかれ。死神が人を刈り取るのみだ」

男は忽然と、私達の前からその姿を消した。