両思い68日目 ページ47
低い声で問われた確認に、烏間先生は1度目を伏せ口を開く。
「今回だけは見なかったことにする。危険を承知で高度な訓練を取り入れたが、やはり君達には、早すぎたのかもしれん。俺の責任だ」
そう言って、革靴を鳴らして病院の中へと歩いていく。静かな駐車場には、私達と、殺せんせーだけになった。
「殺せんせー、ごめん」
「ごめんなさい」
最初に口を開いたのは、岡島君と木村君だった。それに続くように、口々に告げられる謝罪の言葉。
「殺せんせー、本当にごめんなさい」
ハッキリと言葉を伝え、深く礼をする。スカートがシワになるくらいに、強く握った。
「君達は強くなりすぎたのかもしれない。身につけた力に酔い、弱い物の立場にたって考えることを忘れてしまった。それでは、本校舎の生徒と変わりありません！」
叩かれたはずの頬が痛むはずなのに、それ以上に心が締め付けられる。何も返すことも出来ない。
…これが、間違うって事なんだ。
「…っえ？」
誰かの声に、顔を上げて殺せんせーの方を見る。ビリビリ、と音を立てて、先生は見せつけるように数学の教科書を破り捨てる。
「今日からテストまでちょうど２週間。クラス全員のテスト勉強を禁止します」
驚きと動揺の声があちこちから上がる。だけど、見上げた先の先生の顔は、いつもと同じ、私達を導いてくれる顔だった。
「罰ではない。テストよりも優先すべき勉強をするだけです。教え忘れた先生にも責任がある」
＿＿＿＿＿
＿＿＿
次の日、私達が向かったのはある1つの施設。
ゾロゾロと入ってくる私達を、子供達が興味津々に、警戒するように、大きな瞳で見つめていた。
「皆、ちょっと聞いて。園長先生はお怪我しちゃって、しばらくお仕事出来ないの。代わりにね、これから2週間、このお兄ちゃんお姉ちゃん達が何でもしてくれるって」
ちょっと引き攣りながらも皆で笑って見せれば、子供達は、はーい！と元気よく返事をする。すぐに駆け寄ってくる子供達に、気づけば周りを取り囲まれていた。
「全く、なんで私ら無関係の生徒まで連帯責任かねぇ」
「面目ねぇ…」
「すっごい噛みつかれてるよ」
溜息をつきながら言う狭間さんに、寺坂君がすまなそうに謝る。だけど肩や手をガジガジと噛まれるその姿はなんか面白くて、狭間さんがすかさずツッコミを入れた。
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作者名：ангел | 作成日時：2021年5月2日 20時
