番外編Part1〜出会いと恋心〜 ページ5
磯貝side
その日、俺はいつものように授業終わりにバイト先のカフェへと出勤していた。学校から禁止されているものの、家庭の事情によりバイトは必要不可欠。
幸い少し学校から離れている場所だからか、これまでその事実がバレることは無かった。
「いやー、でも本当に磯貝君には助かってるよ。仕事も早いし、接客の評判もいいし。特におばさまからの絶大な支持もあるからね」
休憩中、明るく話しかけてくださったのはこの店の店長。そんなことないですよ、と遠慮がちに返せばうちの看板娘ならぬ看板息子だね！なんて人のいい笑顔をうかべた。
俺の家の家庭事情も、学校のことも知った上でフォローしながら雇ってくれている店長。その優しさには本当に頭が上がらない。
「店長のおかげです。仕事を覚えられたのも、店長のご指導がすごく分かりやすかったので」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ」
カチャカチャ、とボウルに入ったクリームをかき混ぜながらおおらかに笑う。
主に俺の仕事はホールでの接客だったけれど、最近は休憩中にこうやって店長の料理姿を見るのが密かな楽しみだった。
「…そうだ、磯貝君。もうだいぶこのお店にも慣れたしせっかくなら何か作ってみないかい？何でも教えるからさ」
「え、いいんですか？！…あ、でも俺が抜けたらホールが大変なんじゃ…」
正直、凄く嬉しい提案だった。元々料理は好きだし、店長の作る料理はご飯もスイーツも全て美味しい。いつか教えて貰って弟達にも作ってやりたいと思っていたところだ。
だけど、今日のシフトのメンバーは全部で4人。調理場に2人と、ホールに2人。俺が抜けてしまえば、もう1人のホール担当の子が忙しくなってしまうだろう。
そんな風に考えて少し躊躇する俺に、少し離れた席でお客様と喋っていた後輩のスタッフが小走りで帰ってきた。
「磯貝さん、私なら大丈夫ですよ！今店内のお客さんほとんどいないですし、仮にもう数組来たとしても私だけでも回せます！」
グッとガッツポーズをして自信満々な表情をうかべる彼女。ちらりと店長を見れば彼も任せたよ、とその子の肩をぽんと叩いた。
「じゃあ、お言葉に甘えて教えて頂きます。笹井さん、ありがとう」
快くホールを引き受けてくれたその子にお礼を伝えればはい！と大きく頷いてまたお客様の方へと戻っていく。その姿を見送って、俺もいよいよ調理場の中へと足を踏み入れた。
「店長、よろしくお願いします」
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作者名：ангел | 作成日時：2021年5月2日 20時
