番外編Part1 〜出会いと恋心〜 ページ18
「本当はさ、俺もすっごい不安だったんだ。何が待ち受けてるか分からない、酷い噂しか聞かない場所に行くなんて。瀬戸さんが落ち込んでるみたいだったから笑える話でも…って思ったんだけど。無理に強がってたのが馬鹿らしくなったよ」
緊張が解けたような、強がってない、素の苦笑いを浮かべた磯貝君は、ついに溜め込んでいた不安を吐き出した。
「勉強、まともに出来る場所かなぁ」
「…笑い物にされる場所だから満足にはできないだろうな。校舎もボロいって聞くし」
「虫とかでそうだなぁ。夏は暑そうだし、冬は寒そう」
「学校までの道も辛いよな。山の上だから、毎日筋肉痛になりそうだ」
「クラスメイトとは仲良くなれなそう。本校舎に戻りたい一心で、お互いの気遣いなんてないんだろうな」
「改めて言うと悲惨だな。…行きたくないや」
さっきまでの強がりは嘘みたいに、磯貝君からも、私からも、沢山の不安がこぼれ落ちる。
辛い言葉が溢れる中、彼が途端に明るい声で呟いた。
「でも、良かったことも一つだけある」
「良かったこと？そんなのあるわけないよ」
「あるよ。瀬戸さんと同じクラスになれること」
え、とまた情けなく声を漏らしてしまった。無理もないだろう、まだであって数日の人にこんなこと言われたら誰だって戸惑うに決まっている。
「瀬戸さんの事、お店に来てくれるようになってから少し気になってたんだ。もっと仲良くなってみたいって。だから同じクラスになれるのは嬉しい」
私の目を見て、真っ直ぐに伝えてくれる。ドキ、と胸が音を立てたのがわかった。
「E組での生活はどんなものかは分からない。でもさ、少しでも楽しくなるよう、俺達も一緒に頑張らないか？仲間がいれば、少しは気分も和らぐだろ」
そう行って笑った彼に、心にあった氷が溶けていくのを感じた。まだ出会って数日の彼の言葉に簡単に流されてしまうなんて、私も大概単純らしい。
「…ありがとう。少しだけ、頑張ってみようかな」
E組に行くことが決まって、初めて笑った気がする。そんな私の表情を見て頷くと、彼は勢いよく立ち上がった。
「改めて、これからよろしくな。瀬戸」
「こちらこそ。よろしくね、磯貝君」
こちらを向いて、力強く話す磯貝君。私も同じに、大きな声で答えた。
あんなに嫌だったE組が、少しだけ楽しみになっている。彼がいるなら、そう思えてしまうのは私の中で何かが変わったからかもしれない。
番外編Part1〜出会いと恋心〜 End
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作者名：ангел | 作成日時：2021年5月2日 20時
