両思い。【磯貝悠馬】 (ページ15)

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番外編Part1 ～出会いと恋心～ページ15

だけど、私の小さな望みは神様は聞きいれてくれなかった。

「A、本当に行くの？」

赤い顔で制服に着替える私の後ろで、母親が心配そうに呟く。その手にはさっき測り終えた体温計が握られていた。小さな画面に表示される文字は37.8℃。

「うん。…もうだいぶ微熱になったし」

「でも、貴方まだ本調子じゃないでしょう？足元も覚束無いし…」

母親の言う通りだった。熱は引いてきたものの、体の倦怠感は無くなることなく今日も襲いかかってくる。辛くてたまらないけれど、だからといってテストを休む訳には行かなかった。

「…終わったらすぐ帰ってくるから大丈夫。行ってきます」

母親の止める声も無視するように、ローファーをカツンと鳴らして歩き出す。いってらっしゃい、と控えめな声が後ろから聞こえた。

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そんなやり取りをした、数日後。
配られた成績発表の用紙を手にため息をついた。

「…頑張って行った意味、なかったなぁ…」

目に飛び込んでくる、英語18点の文字。
テスト当日、私は体調不良も振り切って全力に問題に取り組んでいた。おかげで得意な国語や、その他の教科はそこそこの点数を取れている。だけど、英語に関しては。

勉強ができていない不安感からか、それともシンプルに体調が悪化したのか、本当に原因は分からない。だけど、英語のテストになった時間、それまでとは比べ物にならない気持ち悪さと悪寒が私を襲った。はっ、と浅くなる呼吸につられ、視界が霞むようにぼやけていく。

気づいた時には、終了のチャイムが無情にも響いていた。

「…E組、か」

そっと紙の端っこに書かれた文字を手でなぞる。

瀬戸A、成績不振によりE組への進級を決定する。

たったそれだけの文章が、私を奈落の底へと突き落とした。

「…A」

小さく呼ぶ、聞きなれた声。

「…E組でも、頑張ってね」

切なそうに、彼女は笑った。
優しい、私を気遣うようなその言葉。だけどそれは、私達の友情の最期を示す言葉でもあった。

「…うん。秋も、これからも頑張ってね」

もちろん。いつもの強気な笑顔で答えて、彼女は走り去っていく。

E組は、椚ヶ丘では落ちこぼれクラスと言われ、山奥の校舎に隔離される。そんなクラスの生徒と仲良くすれば、周りからどんな反応をされるか…馬鹿でも予想できることだった。

３年への進級を目前に控えた3月。も使うことの無い校舎の机を撫でて、私は帰路に着いた。