両思い。【磯貝悠馬】 (ページ12)

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番外編Part1～出会いと恋心～ページ12

それからと言うものの、私達は前より多くその店に通うことになった。とはいえ、私達が行く日に彼はシフトに中々入っておらず、その過程で仲良くなるなんてことは全くない。

そんな、ある日のこと。

しとしとと降る雨に濡れた道を歩いて、いつものように私達はカフェへと向かった。今日は何を食べようかな、そんなことを考えながら素朴ながらも可愛いそのドアを開けた時。

中に見えた私と同じ制服と、気になる会話。奥に見えた磯貝君はどこか暗い顔をしていた。

「ふん、まさか通りかかった道でこんな秘密を知ることになるとはね。磯貝悠馬、我が椚ヶ丘の校則は理解しているのか？2年でもトップクラスを争う君が、こんな違反をしていたとは情けない」

オレンジ色の髪に紫色の瞳を吊り上げたその人。椚ヶ丘の生徒なら知らない人はいない、椚ヶ丘中学理事長浅野學峯の息子、浅野学秀だ。

3年には生徒会長も約束されている彼。その彼が、磯貝君と対立している。

状況を理解するのに時間はかからなかった。

「浅野、校則を破ってアルバイトをしていたことは重々悪い事だと理解してるし、校則を守って生活してる他の皆に申し訳ないと思ってる。…だけど、どうしても辞める訳にはいかないんだ」

恐ろしい威圧感を持つ浅野君の前にも、彼は真剣な表情を壊さない。真っ直ぐに目を見て、自分自身の誠意が伝わるように。

だけど、そんな言葉も態度も、浅野君には何一つ響いていなかった。

「1人が定められた規律を破れば、組織はそこから決壊する。常にトップに君臨しなければならない椚ヶ丘に、君のような違反者は必要ない。…君のことはしっかりと理事長へ報告させてもらうよ。精々良い知らせでも待つといい」

不敵に笑った彼が、冷酷な悪魔にも見えた。もちろん違反していた磯貝君を完璧に擁護することは出来ない。だけど、必要ないとか、そんな言葉を易々と告げることが出来る浅野君が恐ろしかったのだ。

下を向いて俯く磯貝君を置き去りに、浅野君が私達のいるドアの方へ歩いてくる。
思わず焦って戸惑う私の手を掴んで、秋は店から遠ざかるように走り出した。

「…っ秋、なんで逃げるの？」

「言ってたじゃん、何かあれば知らんぷりしろって。私達が知ってたと思われる可能性だってゼロじゃない。あんた分かりやすいし…だから逃げるの」

秋の言っていることは最もだった。私達が入るべきじゃない、関係ないはずの出来事。
だけど、動かす足はとても重たかった。