episode-8 ページ10
side-エース
「なあ、デュース」
部活帰りに、同じく陸上部の部活を終えたデュースを捕まえた。生憎ユウには振られてしまったから、今日は二人だけだ。
「なんだ？」
「最近ユウの様子おかしくね？」
「そうか？別に普通だと思うぞ」
「最近よく遊びとか飯とか誘っても断られんじゃん？でもって何か毎日ウハウハしてるっていうか」
「ああ、確かに……断られることが多くなったよな。何かの用事でまた忙しくしてるのか？」
「だとしてもさ、オレらに隠すなんてあいつらしくないじゃん。……でももし深刻な事情があるんだったら相談して欲しいしさ」
「まあ、そうだな。俺たちに何か手伝える事かもしれないしな」
「あ、でも……」
忙しい、以外にもう一つの可能性も思い付いていた俺は、そっとデュースの耳元に近付き、口に手を添える。
秘密の話をするのだという雰囲気を察したデュースもそれに応じて、静かに耳を傾けた。
「あいつ、彼女できたとか？」
「は、はぁっ？！有り得ないだろ」
「ははっ、めっちゃ動揺するじゃん。でも可能性としてはあるだろー？休日は彼女と遊ぶから忙しい。平日も彼女と長電話するから……」
「俺、ユウに先を越されてしまったのか……」
目に見えてどんよりするデュースが面白かったが、今はそれよりユウの隠し事だ。
「恋人のことなら尚更さ、言って欲しいじゃん？……だからこの後オンボロ寮行かね？」
「え？どうしてだ？」
「直接聞くんだよ。もしかしたら教室では話しずらいような事でも寮でなら言ってくれるかもしれないじゃん？……てことでオンボロ寮行くぞー！」
「わ、夕食どうするんだよ？！」
文句の多いデュースを引っ張って、オンボロ寮への道を急いだ。
ーーー
扉を開ける前からいい匂いがする。晩飯を断ったということもあるし、やっぱり今日は自炊なのか？
「……簡単なものしか作れなかったけれど」
空いていた窓からそんな言葉が聞こえてきて、つい呼び鈴を押す手を止めてしまった。
「……今の聞こえたか？デュース……」
「……あ、ああ、聞こえた……」
二人とも、驚きのあまり声が小さくなってしまった。とはいえ、こういった状況に弱そうなデュースが、変に声を上げるようなことにならなかったのは幸運だと思った。
聞こえたのは紛れもなく女の声だった。……まさか彼女か？……さっき、自分がほんの冗談で言ったことを否応なく思い出してしまった。
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作者名：虹雪 | 作成日時：2024年2月8日 2時
