episode-7 ページ9
「ユウ〜、デュースも誘って今日は晩飯一緒にどう？トレイ先輩が作ってくれるらしくてさ。たまにはユウのことも呼んでいいって」
6限が終わって、教科書の片付けをする僕に声をかけたのはエースだった。
「ああ……ごめん、エース。今日はちょっと無理そう」
「マジー？最近付き合い悪くね？なんかまた学園長に面倒事とか押し付けられたのか？」
「ううん、そんなんじゃないんだけどね」
僕の脳裏には、今日もオンボロ寮のキッチンで家事をこなしていくリヒルデさんの姿が浮かんでいた。今日も僕を待って夕食を用意してくれているのだ。
「そうか？まあでも無理すんなよなー」
「うん、ありがとう」
そんな言葉を最後にエースは教室を離れた。自分の身勝手な感情の為に友情をないがしろにしてしまうのは不誠実だろうか、と心の中に仄かな罪悪感が残る。
ーーー
「リヒルデさん、今帰りました！」
「おかえりなさい、ユウ」
キッチンの方から可憐な声が聞こえる。多分もう出来上がる頃だろう。玄関を開ける前から既に漂っていた良い香りが食欲を刺激して、急にお腹が空いてきた。
「いい匂いなんだゾ！子分、オレ様早く食べたい！」
「二人とも、手を洗ってからね？」
「グリム、行くよ」
面倒くさがるグリムを引きずって洗面所に連れていく最中、キッチンの方でいそいそと動き回るリヒルデさんの姿が見えた。……エプロン姿の似合う素敵な女性だと思った。
しばらくして皆がテーブルについた時も、リヒルデさんはエプロンを着ていた。
「簡単なものしか出来なかったのだけれど……」
リヒルデさんが申し訳なさげに項垂れる。
「良いんですよ、美味しいです！」
「まあ、なかなかいけるんだゾ」
「そう……良かったわ」
リヒルデさんは、元々あまり料理が得意では無いらしい。それなのに、ちゃんと本とかを見ながら頑張って朝晩作ってくれる。
確かに食堂のゴーストが作るものに比べれば味は劣るのかもしれないが、彼女の手料理だというだけで僕は舞い上がってしまいそうになる。
……リヒルデさんはエプロンを着けて、いつも僕らの帰りを待ってくれていた。もし将来彼女と恋人になれたら、というような不純な想像をしてしまう僕が忌々しかった。
だけど、彼女を幸せにしたいという思いは揺るぎない。今は監督生として。そしていつか彼女に僕の想いを伝えられたら、と思うのだった。
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作者名：虹雪 | 作成日時：2024年2月8日 2時
