episode-5 ページ7
｢私のこと？｣
湯気の立つ紅茶を前に、リヒルデさんは不思議そうな顔をした。
｢はい。僕たちは今日から生活を共にします。その為には、お互いのことをもっと知ることが必要だと思うんです｣
｢そうね。ユウ君の言う通りだわ。……だけど、例えばどんなことが聞きたい？出身地とか？｣
｢うーん、そうですね。改めて言われると僕も分からないですけど……趣味とか、好きな食べ物とか、あとは……家族のこととか？｣
家族はいきなり踏み込みすぎか、と思ったが、幸いにもリヒルデさんの機嫌を損なうことは無かった。
｢なるほど、自己紹介ってことね。……じゃあ改めて、私はリヒルデ・エーレンベルク。輝石の国出身で、趣味と、好きな食べ物は……思い付かないわね。家族も……分からないわ｣
｢あ、えっと……すみません、無理して言わなくても大丈夫ですから……｣
｢ううん。そう言うんじゃないの。家族のことは本当に記憶がぼんやりしていてね。幼い頃からずっと離れて暮らしているから｣
｢そうだったんですか……リヒルデさん、僕と同い年ぐらいなのに凄いですね｣
｢捨てられたのよ｣
長い睫毛が伏せられる。憂いを帯びた瞳が静かに揺れている。いても立っても居られない程の罪悪感が喉元までせり上がってくる。
｢……すみません。また言いずらいことを｣
｢いいえ。気にしてる事でもないもの。生まれてから今も十分幸せよ｣
｢そう、ですか……。ああ、そういえば、何歳ぐらいなんですか？学校とかは……｣
今度こそ地雷(？)を踏むまいと明るく話しかける。流石に年齢が地雷になるような年には見えないけれど……。
｢ああ……一応18歳よ。ユウ君はいくつだっけ？｣
｢2つ下です。今年で16になります｣
｢そう｣
学校のくだりはスルーされたので恐らく言いにくい事情のあったことなのだろう。……それより、会話が終わってしまった。普段僕が異性と接し慣れていないということがバレバレじゃないか。
ええっと何がいいんだったか。女の人と話すには……
｢リヒルデさん、凄く綺麗ですよね。芸能人に居そうです｣
｢え？そうかしら……？ありがとう｣
褒められ慣れていないのか、リヒルデさんは妙に動揺しながら受け答えた。いい感じだ。手応えありだ。
｢キレイ系って感じで……芸能人で言ったら、ほら、ヴィル・シェーンハイトとか似てますよ」
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作者名：虹雪 | 作成日時：2024年2月8日 2時
