episode-4 ページ6
とりあえずリヒルデさんには談話室に入って貰った。
｢僕、お茶淹れてきます｣
｢じゃあ、私も付いて行くわ｣
キッチンに向かおうとした僕を、リヒルデの言葉が呼び止めた。振り向いた僕は少し呆気に取られた顔をしていただろう。……少し緊張していたのだ。
｢これからここの家事は私がするんだから｣
｢えっ、そんな、悪いですよ！というか、さっきのって本気だったんですか？｣
少し顔を近づけてきたリヒルデから、咄嗟に顔を背けてしまう。そんなに距離を詰めた訳ではなかったのだが、過剰に反応してしまった自分が恥ずかしい。
｢勿論よ？私、タダで置いてくれだなんて頼まないわ。衣食住の面倒を見てくれるんだから、それ位はさせて頂戴？｣
麗しいアメジストを宿した瞳が、優しげに細められる。ハープの音色のような繊細な声が鼓膜を打ってくる筈なのに、僕はもう自分の心臓の音しか聞こえなかった。
｢ぶはっ！子分のやつ、赤くなってるんだゾ！へんなのっ！｣
｢こ、こらっ！｣
グリムの野次で一気に気まずさが勝って、少しだけ鼓動は落ち着いた。というかそもそもグリムは"理解して"言っているのだろうか、疑問だった。
｢あら、そうね、真っ赤だわ。私が喋りすぎちゃったのかしら。君の厚意に応えないのは無作法だったわ。私も今日くらいはユウ君の言葉に甘えさせてもらうとするわね｣
柔らかく微笑みながら頬を緩ませる表情すらも、まるで絵画みたいだ。
｢は、はいっ！｣
今にも額から汗が流れてきそうなほど、傍から見て僕はかなり切羽詰まっていたと思う。やはり美人は毒だ。
ツイステッドワンダーランドで出会った数少ない女性は皆魅力的だったが、ここまで来ると最早人を超越しているとすら思えた。……そんな非現実的なことを考えるぐらい、僕は彼女に夢中になっているというのか。
リヒルデさんはコーヒーと紅茶どっちが好きかな、と戸棚を漁る。生憎うちにはあまり高価なものがないから、満足してもらえるか分からない。
……学園長の知己だと言っていたが、そもそも一体彼女は何者なのだろうか。友人、というには若すぎる。僕と同じ位に見える。……本当に泊めて大丈夫な人なのだろうか。うっかり浮かれてしまったが、僕は彼女の事を何も知らない。
リヒルデさんは奇麗だ。恐ろしい程に。
そんな考えを巡らしていると、妙に不安が増してきてしまった。
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作者名：虹雪 | 作成日時：2024年2月8日 2時
