episode-48 ページ50
夕食の直後に急いで出てきたが、もう空は墨を流したような漆黒に覆われていた。ルークの今後の予定を私は知らない。もしかしたら明日にも帰ってしまうかもしれない。だから例え遅くなっても、私は今日来たかった。
「ボンソワール、リヒルデ。こんな時間にどうしたの？」
「夜分にごめんなさい……まずは貴方に感謝しないとね。ヴィルを守ってくれてありがとう」
ヴィルが空間転移してきた時、ずっとルークはヴィルの周囲を守っていた。
「いいや、守れただなんて……私の魔法障壁は割れてしまったし、あの瞬間誰かが新たに障壁を張ってくれたおかげさ」
そう言うルークの身体中には所々に包帯が巻かれている。助かったとはいえ、障壁と炎がぶつかった時の衝撃波を、二人はもろに受けた。そしてその時、ルークはヴィルを庇ったのだ。
おかげでヴィルは軽傷で済んだらしい。身体中の包帯を名誉の負傷とばかりに無邪気な瞳で見つめる彼の表情が眩しかった。……私は彼のようには動けなかった。
「ところで、話は変わるのだけど……今日のことで」
「ヴィルのことかい？」
ルークもやはり疑問に思っていたのだろう……鏡でワープして行った筈のヴィルが、急に学園に戻ってきたこと。……それも暴れていたグリムの目の前に。
「私見てしまったの。あの直前、上空に学園長が居たのを……」
「……なんだって？それは……どういうことだい？」
静かな表情から一転、ルークは動揺を隠し切れず、目を見開いた表情のまま分かりやすく狼狽えた。妥当な反応だ。
「ヴィルを利用したのよ……あんな危険に晒して。そうすれば私が本気を出してグリムを倒すと思ったのでしょうね」
「にわかに信じ難い話だけれど……」
「私、怖くなったの。こんな事がこれからも起きるんじゃないかって。だから、もし、今後そんな事が起きたら…………貴方に手伝って欲しい…」
「…何としても、ヴィルを守りたいの」
真っ直ぐに目の前の男の顔を見つめれば、ハンターグリーンの強い光が応えてくれる。
「……ウィ、勿論だよ、リヒルデ。私も彼の為に精一杯を尽くそう。……それと一つ、私からもキミに頼みたい事があるんだ。……キミの歴史が知りたい。ヴィルや私の父とのことも……いいかい？」
「……勿論よ。貴方には知る権利があるわ」
逡巡の後の承諾の言葉は心做しか重たく感じた。しかしそれに反して、心はゆっくりと回顧の旅へ出て行った。
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作者名：虹雪 | 作成日時：2024年2月8日 2時
