episode-45 ページ47
ヴィルの指示通り、ルークは私をヴィルから引き離した。
幸い嫌な顔はされなかったが、ヴィルの表情は当惑に満ちていた。そうよね、いきなり知らない女に抱きしめられたら怖いわよね、と反省する。
｢アンタももう泣かないの。……そうだわ。ほら、ルークも無事だったんだから、彼にもハグしてあげたら？｣
ヴィルの存外優しい声に促されるまま、背後に居たルークの背にそっと腕を回した。
｢……ルークもありがとう｣
ヴィルを守ってくれて、と。口には出さなかったが。彼はちゃんと分かっているらしかった。彼の腕も私の背に回った。
｢マドモアゼルにそう言われると照れ臭いな｣
互いに軽口を叩いてから体を離すと、監督生がグリムに駆け寄るのが少し遠くに見えた。
ーーーーー
「ふなっ！今日はご馳走なんだぞ！」
オンボロ寮には、またあの元気な声の主が戻ってきた。あれからグリムは順調に意識を取り戻したのだった。
「こらっ、グリム！まだ体調が万全じゃ無いんだから」
「やだね〜〜！こんな沢山の好物を前に我慢させられる方が拷問なんだゾ！」
テーブルの上に並ぶのは、ツナサラダにツナサンド、ツナを混ぜ込んだガレット、野菜とツナの炒め物、ツナとアボカドのナムル、など端から端までツナ尽くしだ。
「まあ確かに、グリムが無事に戻ってきたお祝いだもんね。主役はいっぱい食べなきゃだね。…リヒルデさんもありがとうございます」
「いいのよ。グリムが一番大変だったんだから、今日は目一杯食べていいわよ！」
食事を用意したのは私だ。ユウも少し手伝ってくれたが。ここまでグリムの好物で揃えたのは、彼を労う以外にも理由があった。……グリムに後ろめたい気持ちがあったからだ。冷静さを欠いていたとはいえ、私はあの時本気でグリムを殺そうとした。
私がひっそりと心中で後暗い気持ちになっているのとは裏腹に、二人と一匹の団欒は和やかな雰囲気に包まれていた。そんな温和な空間に、ふと、ドアが開く音が入ってきた。
「おーい、ユウ！グリム！無事かー？」
玄関から響く少年の元気な声は、どこかで聞いたことがあった。
「リヒルデさん、エースとデュースです。……グリムがまだオバブロしてた時に連絡取ったんです」
ユウには、こうして心配して駆けつけてくれる仲間がいる。そんな光景が、どうしてか私には眩しかった。
……私にもこんな生活があったんじゃないかって、そう思ってしまうのだ。
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作者名：虹雪 | 作成日時：2024年2月8日 2時
