episode-44 ページ46
この場で最強の魔力を誇るマレウスをしても、グリムのファントムは見つからなかった。その場の皆が絶望を覚悟したが、私は違った。
「……いいえ、見えたわ」
私は諦めない。最後の最期まで手は抜かない。寸分のチャンスでも見逃さない。
「何……？」
だけど決して確実ではない。でも一か八かに賭けてみる。さっき魔力が暴走して魔法の精度が上がった時、見えたような気がしたのだ。グリムのファントムを。
「『宇宙の暗闇より出で、吹き荒ぶ風に乗り、我に万象を示せ』」
「『始まりの魔鏡
意識が遠くの鏡の世界へと吸い込まれていく。良かった、上手く行ったみたいだ。鏡の無い場所でのこの魔法の使用は相当な負荷だったが、幸い魔力は安定している。
鏡の世界は魂の世界だ。だから私も、空間内では魂だけの姿になる。これが実際の鏡を使わない弊害だった。実体は現実世界に置きざりになってしまう。
ずっとずっと身軽になった体で、無数の鏡が怪しく光る空間を泳いだ。"見える"場所にグリムはいない。私は空間の奥深く、魂も寄りつかないような薄暗い深淵へ潜って行った……。
ここは空間の片隅。寒く、暗く寂しい。しかしそんな場所でも光はあった。青白い、遠くの星のような光だったが、私は見逃さなかった。
「……グリム！」
呼応するように光が強く瞬く。しかしそれも、グリムの魂の周囲に浮かぶ黒い靄に阻まれてしまう。……これがきっとファントムだ。
煙草の煙のように、ぼんやりとした気配しか発していないファントムを目視することは不可能だ。……しかし、私には"見えた"、ファントムの放つ悪しき魔力が。私は青白い光を避けて、上手くファントムを目掛けて攻撃魔法の狙いを定める。
ーーーー
｢良かった……！あの時、本当に生きた心地がしなかったのよ……！！｣
｢ちょ、ちょっとアンタ大袈裟！ああもうっ、泣きじゃくった顔で引っ付かないでよ！｣
鬱陶しげにいなす反応すらも嬉しかった。ヴィルが生きている……！
鏡の空間から戻ってきて、すぐさま私は瓦礫に背を預けていたヴィルを抱き締めた。でも、これくらいは許して欲しい。
｢アンタだって休んだ方がいいんでしょう？！こらっ、聞いてるの？！ルークもニコニコしてないでこの人引き剥がして！！｣
｢ウィ｣
後ろから優しく抱き上げられるように、ヴィルと引き離された。名残惜しいが今は仕方ないか。
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作者名：虹雪 | 作成日時：2024年2月8日 2時
