episode-3 ページ5
「私からもお願いします……!いやぁ、想定外の事態が重なりすぎてしまって……私としてももう対応しきれないんですよ!」
「え、ええと……」
学園長もわざとらしい困り顔を見せながら畳み掛ける。食費やらをダシに脅されなかっただけまだマシだと思えたが、しかし学園長のこの圧の掛けようには気が滅入った。
「無理して飲まなくたって良いわ、監督生くん。……でもね、私はもうここ以外に寄る辺がないのよ。ここを当てにしてしまうのも申し訳ないけど」
悲哀を滲ませた大きな瞳が僕を映した。今だけは、少女のこの愛らしい容貌が憎らしく思える。学園長が突然連れてきた得体の知れない少女。今まで散々トラブルに見舞われてきた僕が言うのは説得力に欠けるかもしれないが、妙に嫌な予感がしてならないのだ。とはいえ……
「そう、ですね……見知らぬ人を泊めるのは怖いです。でも、貴女のような年若い女性を追い出すのも忍びないですから……早く、次に住む場所を見つけてください。それまではオンボロ寮の部屋をお貸しします」
「本当……?いいのね?……ありがとう、ユウ君」
少女は穏やかな笑みを浮かべた。それを見たら何だか悩んでいたこともどうでもよく思えてきて……美人は恐いなと感じる。しかも『ユウ君』だなんて、下の名前で急に呼ばれたから驚いてしまった。全くそんなことは無かったはずなのに、少しだけ少女を意識してしまっている僕がいた。
「私としても本当にたすか……ゴホンっ、監督生くんがそんなに優しい心を持っているだなんて……私は教育者として感動しましたよ!ああ、それと……」
学園長は思い出したように、グリムに顔を向けた。
「リヒルデさんのことは他の生徒には絶対に内緒です!普段交友のあるトラッポラ君やスペード君にもです!くれぐれも、気を付けてくださいね!」
「なんで俺様に向かって言うんだゾ」
「ここの問題児たちは絶対……っああ、いえ!では私は仕事に追われていますのでまた後ほど……ああ、忙しい忙しい……!!」
わざと忙しなくする振りをして、クロウリーはそそくさと去ってしまった。あまりの行動の速さと胡散臭い演技に置いていかれた少女もぽかんとしてしまっている。
「ったく、学園長のやつ相変わらずなんだゾ」
「本当にね、ふふっ……」
少女は、いや、リヒルデさんは花が綻ぶように笑った。ちょっとミステリアスな雰囲気はあったけど、案外親しみやすい人なのかもしれない。
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作者名:虹雪 | 作成日時:2024年2月8日 2時