episode-38 ページ40
｢なるほど、邪悪を働いた自覚まで無いのか。呆れたな。しかし、災いの芽は早期に排除しなければ……｣
｢災いだなんて……！！そんな事したら一生恨むよ！リヒルデさんがそんな事……だって、リヒルデさんは、彼女は……僕はリヒルデさんが……！｣
｢ユウ君｣
ユウがヒートアップした辺りで、ルークの声に遮られる。とはいえ、私だって他人事ではない……まさか、ユウが余所者の私をこんなにも受け入れてくれていただなんて……
｢……それとマレウス君も、落ち着くんだ。対話もなしに彼女の裁量を決めようと言うのは、少し浅薄ではないかな？｣
｢……浅薄だと？僕がか？ハントは状況が分かっていないな？このままでは、｣
｢確かに常に対局を見るべきキミと考え方を違えてしまうのは仕方の無いことなのかもしれない。しかし私は、有無を言わさず彼女を攻撃するということには反対だよ｣
ルークの言葉でしばらく全員が静まり返った。マレウスを真っ直ぐに見据えるルークに応えるように、マレウスもじっとルークを見下ろしている。
｢……わ、私はグリムにそんな魔術なんて掛けていないわ。現にグリムに敗れてこうして寝ていることだし｣
妙な湿度を帯びた沈黙を破るのは、多分この私でなくてはならない。この諍いの渦中にいる私が……。
｢確かに、このヒトの子の言うことも間違って居ないな。しかしまだお前の疑いが晴れたわけではないぞ。……ふむ、見たところ魔力は十分だ｣
人外を思わせるライムグリーンの瞳が光る。……さすが妖精族、いや、ドラコニア一族ともなれば見ただけで相手の技量が分かるのだろう。甚だ恐ろしい。
｢よし。リヒルデと言ったな？僕に付き合え。グリム鎮静に力を貸せ｣
｢……っツノ太郎！！リヒルデさんは魔力も沢山使って、こんなボロボロな状態なんだよ？！どうしてこれ以上戦わせるのさ！｣
｢……分かった。お供致しますわ｣
また諍いの余波が押し寄せている。友人同士でそのように言い合うことなどないだろうに、と悲しくなる。今度こそ防がなきゃ行けない。そう思って私はユウの言葉を遮った。
｢でっ、でもリヒルデさん……！｣
｢もうおよし、ユウ。私の所為でお友達とこんな無用な言い争いなんてしてはいけないわ。……それに安心しなさい。魔力はもう半分以上回復してる｣
魔法は、ね。体の方がとにかくダメージを受けた。回復魔法で何とか最低限持ち直したが、それでもまだ危うい。
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作者名：虹雪 | 作成日時：2024年2月8日 2時
