episode-37 ページ39
｢忙しなくしてすまなかったな。ハントと……お前は？｣
｢は、初めまして、私はリヒルデ・エーレンベルク。炊事係として、少し前からオンボロ寮でお世話になっていたのよ｣
｢……なるほど｣
当たり障りのない返しをしたつもりだったが、男は眉間に深く皺を寄せた。迫力満点の怖い顔で見下ろされて、私もますます萎縮してしまう。
｢……貴方も、名乗ってくださる？｣
｢失礼したな、僕はマレウス・ドラコニア。茨の谷の次期当主だ｣
｢……ドラコニア？貴方があの？｣
額を嫌な汗が伝う。ドラコニア一族ともなれば、私の魔力で叶う相手では無い。まさに今の状況は蛇に睨まれた蛙という訳だった。
｢僕の名を聞いて驚くのは無理もない。が、それは今僕がしたい話では無い。……リヒルデと言ったか、貴様だな？｣
｢そうよ。それで、私がどうしたと言うの？貴方こそ理由も説明せずに一人で勝手に怒って、なんのつもり？｣
軽く睨めつければピシッ、と彼の額に青筋が走る。しまった、と思った時にはもう遅い。マレウス・ドラコニアは、私を殺してしまうのではないかというくらい怖い顔で見下ろしてきた。
｢グリムの魔力を封じても不完全だった訳だ。貴様が外からグリムに魔力を送り続けているのだろう？……まずは貴様を仕留めなければいけなかったのだな。僕としたことが、不覚だった｣
最早マレウスの言葉を理解するだけの余裕は無かった。目の前で彼がかざした手のひらに、黄緑色に輝く球体が浮かび上がる。
強烈な魔力を宿したそのエネルギー体は、明確な殺意をもって私を狙っている。妖精の癇癪に巻き込まれて死ぬなんてあんまりだ。
｢ま、待ってよツノ太郎！この人を傷付けないで！｣
突如、ユウが私とマレウスの間に入る。ユウはマレウスの友人であるらしいが、その友人に立ちはだかられても彼のしかめっ面はピクリとも動かない。
｢せっかく分かったのだ。"邪悪な力"の源がな。これが常時グリムに魔力を送っていた所為で、グリムを落ち着かせるのに難航した……そしてそもそもこれの所為でグリムはオーバーブロットしたのだろうな｣
｢え……何言って、ねえ、そんなの……｣
｢そうだわ。言いがかりよ。第一私はグリムを鎮めようとしてこうなったのよ？｣
｢……ほら、本人だってこう言ってることだし。ね、ツノ太郎……｣
｢なるほど、自覚まで無いのか。呆れたな。……しかし、災いの芽は早期に排除しなければ｣
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作者名：虹雪 | 作成日時：2024年2月8日 2時
