episode-34 ページ36
「封印か……」
今初めて知ったような素振りをする。彼女が封印されていたことは、鏡の間で彼女が去った後に学園長から聞いた。
「でも、急にどうしたんですか?そんな事訊くなんて」
そう冷静に言って見せたユウ君の瞳には、小さいながらも確かな敵意の炎が揺れていた。リヒルデを探ろうとした私を警戒したのだろう。
「他意はない。単に気になったというだけさ。美しいものには誰しも興味をそそられるものだろう?」
本題を切り出すまでは嘘は吐かないまでも、あくまではぐらかしておきたかった。
「ああ、そうだ……封印といえばね、最近興味深い話を耳にしたんだ。魔法医療に封印が取り入れられる計画が近々進んでいるらしい」
「医療、ですか?」
「うん。封印は対象者の魔力を時空的に無効化しているとも言える。つまり、"年齢をそのまま"にして何年も眠り続けることが出来るという事……封印を解く条件を簡単なものにしておけば、コールドスリープと同様の効果が得られると言うわけだ」
「急に難しいお話になりましたね……つまり、冷凍しなくても魔法で歳を取らないようにできるってことですか?」
「そういう事だね。例えば見た目は若く見える人でも、本当は何十年も前に生まれていた、とか」
ピクリ、と彼女の表情が動いた。視線は未だに天井を向いたままだが、私が何を言おうとしているのか既に察しているらしい。
「そういえば、また話が変わってしまうのだけれど、こうして見ると改めて貴女の美しさに圧倒されるね。女性的な嫋やかさだけでなく、少年のような凛々しさも併せ持っている。まるで……」
リヒルデの瞳には確かに揺蕩いが見える。対する私も静かに彼女を窺う。フィクションでよくある心理戦をやっているようで、私の気も少しずつ昂ってきた。
「まるでヴィルを見ているみたいだ。そのアメジストの瞳も、厳しさと優しさが入り交じったような眼差しも、彼の面影を重ねてしまう」
「あら、君は随分"ヴィル・シェーンハイト"が好きなのね……ファンなの?」
芸能人であるヴィルしか知らないとでも言うように、わざわざフルネームで呼んで見せているが、逆によそよそしすぎて不自然だ。
「ああ、ヴィルは好きだし、普段からも友人としてよく見ている。……だから貴女に彼の面影を感じることを、偶然だとは思えないのさ」
「妙なこと言うのね。偶然じゃなかったら何だって言うの?」
「貴女がヴィルの母親じゃないかって、ね」
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作者名:虹雪 | 作成日時:2024年2月8日 2時