episode-30 ページ32
「まずい。グリムの魔力を見誤ってしまった……」
これだけ不利属性の連撃に耐えているグリムに、果たして私の魔力押しが効くのだろうかと、不安になる。
用心深くグリムの隙を狙っても、躱されることが増えた。通常のグリムの魔力量から鑑みてもそろそろ魔力を使い切る頃合だが、全くその気配もない。まるで『外部から常に魔力が送り込まれている』かのような。
「ガルルルル！！」
「………！！」
鋭くなった牙の隙間から、ぼわっと大量の炎が吐かれる。まずい、と思って必死に身体を展開しようとしたが、間に合わなかった。
「きゃあっ！」
咄嗟に魔法障壁を張ったので火だるまは免れたが、火魔法と障壁とかぶつかったことで巨大な衝撃波が生じてしまった。あまりのことに為す術なく、私の身体は遠くへ吹き飛ばされた。
そして、身体が何かに強く打ち付けられたのを感じて、私は意識を手放した。
ーーー
私はまた無意識にユニーク魔法を使ってしまったのか、気付けばあの鏡の空間にいた。
そこで初めて、私が意識を失っているのだということを知った。……この空間に私が来れる条件というのが『現実世界の私が眠っていること』だからだ。つまりこの鏡の空間は私の夢の世界ということになる。
まだ現実の世界ではグリムが暴れているだろう。早く起きて戦わなければ、と思うのだが、そう簡単に覚醒できない。
そんな事を考えているうちに、通路を挟んだあっち側、いわゆる『異界の虚空』に、浮いていた鏡の一つがゆっくりと私に近付いてくる。そしてその鏡の中にはとある人の姿が浮かんでいた。
『異界の虚空』の鏡は必ず異界の世界を映す。だから近付いてきた鏡に映る人物が誰かは大方想像がついていた。その人物が鏡を通して意図的に私に対して接触を測ったのだろう。
『当人らの意識がこの空間に接続してあること』『魂の引き合う者同士であること』の二条件に限って、異世界と現世界は僅かに繋がることが出来た。ミッキーとやらとユウの魂が引き合って、接触を果たしたように。
「……久しいですね。グリムヒルド殿」
『リヒルデも達者なようで安心したよ』
鏡の中で不敵な笑みを浮かべる美女は、紫色のドレスに黒いマントを靡かせながら現れた。更に頭に冠を載せた彼女は異世界にある王国の女王だった。
彼女、グリムヒルドの容貌に見覚えのある者も多いだろう。彼女こそがグレートセブンの一人の『美しき女王』その人なのである。
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作者名：虹雪 | 作成日時：2024年2月8日 2時
