episode-29 ページ31
「あっ、ユウ、あれ！」
リヒルデさんが焦って指を指した方に視線を向けたと同時に、ガルルルル、とけたたましい獣の唸り声が聞こえた。
「これって……」
オンボロ寮の塀の中からおぞましい黒色の瘴気が溢れている。続いて、塀の上から大きな魔獣が顔を出した。灰色の毛並み、耳から登る青い炎。そして鋭い瞳と爪。いつか見たあの夢とそっくりの光景だった。
「グリム！グリム！僕だ！分かるか？！ユウだ！」
「グァッ！ガルル！！」
通じているかどうかも分からない。苦しそうな鳴き声からは、いつものグリムの気配すらも感じられない。
「ユウ、下がって。貴方は他の寮に行って寮生の無事を確認して来てくれる？」
「はい。じゃあ、グリムを……グリムを頼みます！元のグリムに戻してやってください！」
「分かってるわ。私にとってもグリムは大切な寮の仲間だもの。無事に貴方の元へ返してみせる」
心の中にざわめきを感じたが、僕は彼女の言葉に従って他の寮へのゲートに向かった。
side-リヒルデ
ユウの背中がどんどんと遠のいて行くのが見えた。これで安心して戦える。
「……さあ、グリム、おいで！」
胸元のペンダントを手に、グリムに立ちはだかる。そしてペンダントの魔法石に魔力を込めながら、呪文を詠ずる。
「アクアウェーブ！」
先程からグリムの繰り出してくるのはどれも火魔法なので、不得意ながらも水魔法を中心に打ち込んだ。更に属性不利で怯んだ隙に、無属性魔法の連撃を加える。
ごく一般的な魔獣ならば、これ程の攻撃を加えられれば大幅に体力を削られている筈だが、グリムは疲弊している様子すら見られない。
「……あんた、無事に戻って来たらきっと偉大な魔法士にだってなれるわ」
「グル………ガルルルッ！！」
グリムは私の言ったこともまともに認識できていないらしい。周囲の岩や瓦礫を浮遊魔法でぶつけようか……いや、それではグリムが怪我をしてしまう。あくまでも"魔力"で力押しするしかない。私でも歯が立たないのだから、やはりヴィル達を逃がしておいて正解だった。
「フォレストストライク！」
グリムももう水魔法の連撃を食らうのには飽きたのか、火魔法以外の属性魔法をぶつけてくるようになった。火と水の魔法が無作為に放たれるのでややこしい。私のユニーク魔法も戦闘向きでは無いので、通常魔法の連撃が精一杯だ。
「まずい。思ったより強いわ……」
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作者名：虹雪 | 作成日時：2024年2月8日 2時
