episode-2 ページ4
「リヒルデと言います。事情があってしばらく故郷に帰れなくなってしまったの。迷惑を承知で、お願いできないかしら……」
学園長がオンボロ寮に連れてきた謎の少女は、こちらが呼吸も忘れてしまうほど美しい容姿をしていた。街中で見掛けたら思わず振り返ってしまっていただろうとすら思う。
「リヒルデ・エーレンベルクさんは私の大切な客人なんです。あなたと同じく、帰る場所も無く……どうか少しの間だけですから頼めませんかねぇ」
「ええ、あ、えっと……」
突然の話題すぎて、僕は咄嗟に応じることが出来なかった。
「おーい子分〜！遅いんだゾ！」
心配してくれたのか、はたまた暇になっただけなのか、グリムもやってきた。
「って、そいつ誰なんだ？女だし……なんか弱っちそうなんだゾ！」
「こらっ、失礼でしょ！」
「こんにちは。……君がグリム君？」
「おおっ！オレ様の名前を知ってるのか？！流石は将来大魔法士になるグリム様なんだゾ！」
「ええ、お二人とも優秀な生徒さんだって聞いているわよ」
お世辞だなんて分かっているのに、僕は少女の花のような微笑みに思わず頬が熱くなった。
「グリム君にもちゃんと聞かなきゃいけなかったわね。私行く宛てが無くて、オンボロ寮にしばらくお世話になりたいんだけど、いいかしら……？」
「お世話？ここに住むってことか？オレ様は別に構わねえんだゾ！」
「ちょっと、グリム……！」
咄嗟に口走った言葉は、意図せず、まるで少女の申し出を迷惑がっているかのような言い方になってしまった。それに気づいた僕は、はっとして少女に視線を向ける。
「無茶なお願いだってことは分かってるわ。だから勿論タダでだなんて言わない。家事でも雑用でも、ここの事なら何でもするわ」
少女の真っ直ぐな瞳に貫かれる。そしてその美しく可憐な瞳に、僕が映っている。じっと見つめられると恥ずかしくなって、僕はつい視線を逸らした。
「何でもか？！じゃあ、もう監督生に『片付けしろ』だなんて言われなくて済むんだゾ？」
「ええ。お二人とも学生さんなんですもの。お忙しいんでしょう？もし泊めてもらえるなら、私もそれくらいはしなくてはね」
「さっすが！気が利くんだゾ！良かったな、子分！」
「ちょっとグリム……勝手に話を……」
「私からもお願いしますよ、監督生くん」
流石にまずいと感じた。どんどん断りにくくなっている。
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作者名：虹雪 | 作成日時：2024年2月8日 2時
