episode-27 ページ29
「……ユウがもと居た世界の場所を闇の鏡経由で探していたわ。きっと、鏡が使えなかったのはその所為だと思う。私達も今、報せを受けて急いで戻って来たところよ」
ヴィル先輩の威圧に気圧されたのか、リヒルデさんがおずおずと答える。しかしそのリヒルデさんも負けじと、あくまで凛とした態度を貫く。どこか似た二人が睨み合う、不思議な光景だった。
「もう鏡は使えるの？」
事情を知って、ヴィル先輩も怒る気を無くしたらしい。一転して落ち着いた声でリヒルデさんに尋ねる。とにかく今は、寮生を"避難"させることが彼にとって最優先事項なのだろう。リヒルデさんも恐らくそれを察している。
「ええ。魔力値も安定しているから問題は無いはずよ。貴方達も早く行きなさい」
「まだ他寮の生徒は確認していないから、アタシとルークはもう少し残るわ。アタシ達にも出来ることはまだあると思うし」
「……いいえ、それには及ばない。2人とも、早く退避した方がいいわ。他寮生の避難誘導にはユウに行ってもらうから。グリムの方は私が……それでいいですね、学園長？」
「……ええ、ここはリヒルデさんにお願いします」
それを聞いた二人は驚いた顔でリヒルデさんに向き直った。
「アンタ一人で？無茶よ、いくら何でも……」
「今回の件はね、監督生であるユウを除けば、貴方たち生徒には何の責任もない、これは学園の問題よ。生徒である貴方たちを危険に晒す訳にはいかないの。……ここは私達"大人"に任せて」
「…！」
『大人』と、また意味深な発言をしたリヒルデさんの顔を咄嗟に見て、更に驚いてしまう。……綺麗だったのだ。いや、まあ、いつも彼女は綺麗なんだけれど。これほどまでに慈しみや愛情の籠った表情は初めて見た。しかし僕は感動すると同時に絶望してしまった……その視線の先にヴィル先輩がいるからだ。
彼女が僕にあんな顔を向けたことなど一度も無かった。リヒルデさんの"特別"はきっとヴィル先輩なのだという事実が、一瞬にして痛い程に突きつけられたのを感じてしまう。
とはいえヴィル先輩は芸能人だから、リヒルデさんは単なるファンというだけなのかもしれない。しかし、こんなにも熱意に満ちた目を、一介の芸能人に向けることなんてあるのだろうか。
それなら、リヒルデさんはヴィル先輩を愛しているのかもしれない。…確かに先輩と比べれば、僕の勝てるところなんて何一つない。子供っぽくて、魔法も使えない。僕が男として認められない訳だ。
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作者名：虹雪 | 作成日時：2024年2月8日 2時
