episode-23 ページ25
先程から代わり映えしない景色が延々と続いている様だが、リヒルデさんはどこへ向かっているのだろうか。進行方向の右手に浮かんでいる鏡のうちどれか一つから、僕たちは出てきた筈だ。
よくよく観察してみると、右手に浮かぶ鏡の中には世界各地の色々な場所の景色が映っている。一方で左手の鏡も似たようなものを映しているが、はっきりと『何かが違う』と分かる景色ばかりだ。現実感がなく、靄に包まれているかのような不安定さが滲み出ている。
「さ、こっちよ、着いてきて」
声を掛けられて、ハッとして彼女の後を追う。鏡達に魅入られて、僕はすっかり心を奪われていた。
リヒルデさんは左手の鏡の間を縫って進んで行った。通路から外れてしまったら、下には床も見えない暗闇が広がっている筈なのに、なぜ進めるのだろう。などと思いながら僕も通路の外へと足を踏み出した。
「うわあっ！！」
調子に乗って通路外へ身を乗り出した僕の体を、理不尽な重力が襲う。何故……？僕の体にだけ質量があるとでも言うのだろうか。
「ユウ！！」
真っ逆さまに鏡達の奈落に落ちそうになっていたところを、またもやリヒルデさんの腕に繋ぎ止められる。少しだけ、体が軽くなった。
「不注意だったわ、ごめんなさい！大事無いかしら？」
「ええ、平気です。手間を掛けさせてしまって申し訳ないです」
「いいえ、元々貴方のためだもの、気にしないで……それにほら、見えてきたわ」
……終わりない鏡の群れの中に、巨大な灰色の長方形が浮かんでいた。こんな一見不気味な存在が、距離の概念を思い出させてくれるのだから不思議だ。
「あれ、ですか……？平面にしか見えませんが、あれをどうするんです？」
「中に入るのよ。あれも鏡と一緒だわ」
「鏡と……？わぁっ！」
次の疑問を投げかけ終わる前に、僕達は灰色の長方形の中に吸い込まれてしまった。
「こ、ここは……？映画館？」
辺りを見渡す限り、そうとしか思えなかった。眼前には畳まれたままの無数のシートがこちらを向いている。見た限り客席には誰もいない。振り返ると、さっきの灰色の長方形が広がっている……スクリーンだ。僕らはスクリーンから映画館に入ってきたのだ。そのスクリーンから出る仄かな光以外に明かりが無いせいか、客席はまるで上映中かのように真っ暗だった。
「まさか、……ここが、僕の世界……？」
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作者名：虹雪 | 作成日時：2024年2月8日 2時
