episode-20 ページ22
side-ユウ
僕は洞穴の中をずっと一人で歩いていた。周りにはグリムも、リヒルデさんもいなければ、ここがどこかも分からない。
洞穴には不気味な一本道が続いていた。……道の奥深くから不気味な呻き声が微かに響く。怖いはずなのに、僕は進んだ。
「ガルルル……ガウッ…！！」
鼓膜を殴られたようなけたたましい唸り声と同時に、洞穴の奥から巨大な化け猫が現れた。鋭い牙とぎらぎら光る目が恐ろしく、耳から出ている青い炎も不気味だった。
「うわっ……っお、お前、お前は……？」
思わずたじろいだものの、僕はこの化け猫をどこかで見た覚えがある。……以前にもこんな夢を見たことがあった気がするのだ。
「ガウッ……グルルル……ッガッ！」
しかしそんな余計な考え事をしている内に、化け猫はもう僕に飛びかかろうと牙を剥いている。
「グリム、待って！止めてくれ！……？！」
咄嗟に口走った言葉を脳内で反芻し、遅れてその意味を理解する。グリム。僕は今グリムと言ったか……？
「ガウッ……ガァッ！」
今は間一髪でグリムの攻撃を避けることができたが、次はもう避けられないだろう。グリムは僕を本気で殺すつもりだ。あのグリムが……グリム……
「なんで……グリム？なぁ、グリム……」
「……グリム！！」
叫んだと同時に目が覚めた。視界にはオンボロ寮の天井。体は汗だくで、呼吸も荒い。……夢。そう、夢だった……全て、夢、ゆめ……。
部屋を見渡せば、グリムは穏やかな表情で寝息を立てていた。やっぱり全て夢だったんだ。
外はまだ暗い。けれどあんな夢を見て、いても立っても居られなくなった僕は、部屋を抜け出した。
外に出ると、星々が美しかった。美しい夜空は僕の世界と変わらないのに、この世界に僕の居場所はあるのだろうかと、時折不安になる。
「おや、ユウか。久しぶりだな」
意味もなく寮外に連なる階段を下りて外に出ようとした時、僕を呼び止める声に足を止めてしまった。
「ツノ、太郎……？久しぶり……だね」
「？、ユウ、どうした？泣いているのか……？」
「え……？あ、ほんとだ、涙出てる……」
目頭に触れた指が仄暖かい。触って確かめるまで分からなかった。
「何か良からぬ夢でも見たのか？」
「うん、そんなところ……」
「……そうか。……災いとは、運命とは、まして魔法も使えないヒトの力ではどうしようも無いものだ。しかしユウ、お前は善き心を持っている」
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作者名：虹雪 | 作成日時：2024年2月8日 2時
