Prologue ページ1
クロウリーが定期的に鏡の間を訪れ、闇の鏡の魔力値をチェックしに行っているということを知っている生徒は一定数いた。闇の鏡は学園の重要な魔法道具であるために、その細かな点検は確かに重要だ。それ故にその噂を耳にした生徒たちは各自勝手に納得して、クロウリーの行動を疑問に思うことすらしなかった。本当の彼の目的が何であるかも知らずに。
「闇の鏡よ」
「汝は……ああ、何用か？」
重々しい口調で、鏡面の内部の男の顔が言葉を紡ぐ。
「……彼女の様子はいかがです？」
「少し前に報告した通り、魔力値、ブロット値共に不安定だ。それも以前より悪化している」
やっぱりか、とクロウリーは内心頭を抱える。闇の鏡の魔力値の不調は今に始まった事ではなかった。ちょうど半年前、２月から３月頃から若干の兆しがあった。
魔力値や……特にブロット値などは時間と共に悪化の一途を辿っている。
クロウリーにしても、こんな状態でオーバーブロットなんか起こされてしまえばひとたまりもないのだ。
「ま、まさか封印が解けるなんてことはありませんよね……？」
「それも、分からぬ。しかし、もし解けたとすれば……」
「どうしたんです？闇の鏡よ、おーい、おーい！」
急に声が途切れたかと思えば、鏡面が暗黒に塗りつぶされ、さっきまで映っていた男の顔が消えてしまった。こんな異常事態は、クロウリーが学園長に赴任した百年の間で一度も例がない。いよいよ顔から血の気の引いたクロウリーは鏡面に対峙し、杖を構える。
「や、病む負えませんね……貴女を傷付けるつもりは無かったんですが……」
「……汝の名を告げよ、この私に正体を明かせ」
軽やかな女の声が、不意にクロウリーの鼓膜を打つ。間違いない。彼女が目覚める。そう確信しながら、杖を握る手に魔力を込める。
「名を告げよ、私を呼び起こした者の名を」
暗黒に塗れた鏡面から少女が闊歩して現れる。まるで長期休み明けに学園に戻ってきた生徒のように。
「……呼び起こした訳じゃありませんよ」
「あら、クロウリーだったの？ふふっ、闇の鏡の口調を真似た意味が無かったわね。見られても問題ないもの」
少女はクロウリーを一瞥すると、無邪気な笑顔を浮かべた。しかし幼さを残しながらも、どこか大人っぽい余裕と色気に満ちた表情は、クロウリーもよく知る生徒の面影を感じる。
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作者名：虹雪 | 作成日時：2024年2月8日 2時
