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こんなに“普通“に人と話したのは何時ぶりだろうか。
話していて苦も無い、不安にもならない。これはきっと普段からの彼の人望からも来ているのだろうが、人として相性が良いのではないだろうか、と錯覚してしまう。

「はい、これで終わり。よく頑張ったね」
「皆ならこれ以上を耐えてるだろう?……ちょっと、子供じゃないんだから」

優しく頭を撫でてくる手を払い除ける。
するとごめん、なんて申し訳無さそうな顔で言ってくるものだから、此方が申し訳無くなってしまってつい焦ってしまう。

「そんなに申し訳無さそうにしないでよ、嫌だった訳じゃ無いし。寧ろ嬉……」

何を言っているんだ、と口をつぐんだ。
元々自分は幼少期は甘えたがりで、此処に来てからも何故此処に来てしまったのか、もう嫌だと後悔して何度も家に帰った程だった。
しかし今では病弱な親が体を壊してしまい病院に居る為、家に帰っても甘えるどころか自分が世話をする為に病院に向かわなければならない。
親では無いにしろ褒められるのも、甘やかしてもらえるのも久々なので嬉しくない事はない……のだが、それを口に出してしまうのは__
ちら、と相手の顔を覗き見ると予想通り。

「……ふふ、なんだか溝みたい」

素直になれば良いのに、なんて嬉しそうに笑っている。
それが昔の母さんの姿に重なって、まるで本当の母親の様に錯覚してしまう。
嬉しそうに此方を見つめている彼に向き直る。

「香本」
「ん、どうしたの?」
「……手当て、ありがとう」
「どういたしまして」

薄く笑みを浮かべ乍そう言えば、相手も微笑み乍そう返してくれる。
こんなに和やかな、楽しい時間は本当に久し振りだ。
そう、何時も今まで殺してきた人達への懺悔で埋め尽くされている僕の心には、随分と久し振りの休息。全ての重荷から、解放された様な。
こんな時間がずっと続けば良い、そうとすら思ってしまった__直後。
扉が開き、息を切らした雄吉先生が入ってきた。

「おいっ、お前ら……仕事だ、行けるか?」

僕と香本は顔を見合わせる。
嗚呼、そう言えば先生には左腕の事は言ってないんだった。
彼は心配そうな顔で此方を見ているが、僕は直ぐに頷いて、

「はい、行きます」

そう笑顔で答えた。
僕が答えれば彼も頷き、同じ様に行くと返した。
その言葉に先生は安堵し、置いてきてしまった僕の槍は廊下に置いてあるから、と伝えてくれた。

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作者名:イル@初心者 | 作成日時:2016年2月29日 3時

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