【全員主人公】愛されたい者、必要とされたい者 (ページ4)

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「……あれ、なんか痛い」

ちら、と右手を見れば少し大きめにに切り傷が付いていた。
戦いに夢中で気付かなかったが、恐らく死にかけの敵兵にでもやられんだろう。
痛いのは嫌いだから、なるべく傷付かない様にしていたのだが……失敗した。
垂れる血をもう片方の手でごしごしと拭き取り、放っておけば治るだろう、と放置宣言をした直後。

「珍しいね、漆橋も怪我なんてするんだ」

余り馴染みの無い声にぱ、と横見れば“お母さん“で有名な彼、香本卓也(ｺｳﾓﾄﾀｸﾔ)が立っていた。
彼も共に出兵していたので、敵にやられたのだろう、頬や首元にガーゼが貼られていた。

「……まあ、人間だしな」

冗談混じりにそう返せば、彼の方は先程まで開いていた本を脇に抱え、服のポケットから絆創膏を取り出せば笑顔で此方を手招きした。
言われるがままにそちらに行けばす、と手を取り手際良く絆創膏を貼られた。

「大方放っておくつもりだったんだろ？化膿したら戦いの時困るし、ね」
「……ありがとう」

そう、これが彼が“お母さん“と呼ばれる所以だ。
面倒見が良く、誰にでも優しい。
まるで本当の母親の様な性格をしているから、皆は親しみを込めてそう呼ぶ。
＿＿まあ、僕は余り好まないのだが。
彼が悪い人でない事は知っている、分かっている。けれど彼が誰かに頼られる度、俺の必要とされる機会はどんどんと減っている事になる。

「それじゃあ、お大事に」
「あ、A……行っちゃった」

温かい、人間らしい彼の手の中からするりと抜け出せば身を翻して歩き始める。
彼はきっと気付いていないのだろう、自身の存在がどれだけ僕を苦しめているのか。
服の胸元を痛む右手で握り締め、ぽそりと呟く。

「……大嫌いだ」

＿＿そして僕もこの行動が、彼を傷付けているなど思いもしなかった。