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「……A、Aってば!聞いているのですか?」

名前を呼ばれては、っとする。
前方の人物__不宮理絵(フミヤ リエ)は聞こえていた部分以前にも何回も呼びかけていた様で、
我に返った此方の様子を見れば頬を膨らませている。

「妾の話、ちゃんと聞いていたんですかー!?」
「ごめんごめん、聞いてたよ。シュークリームが美味しかった、だっけ?」
「全然違います、それは佐々木ちゃんの話ですー!」

もう、と不機嫌そうに呟いた彼女は此方に向き直り、
話はちゃんと聞けと忠告してから話し始めた。

「今日の活躍、凄かったらしいじゃないですか!最初は何時もみたいにぼおっとしてたらしいですけど、敵に突っ込んでからはどんどん倒しちゃったんでしょう!?」
「……何時もは倒せても3、4人位なんだけどね。今日は調子が良かったみたい」
「妾もそんなにやる気があるA、見てみたかったですー!」
「はは、残念だったね」

両腕を挙げて襲い掛かるライオンの様な姿で話す相手を見ていれば、思わずくすりと笑みが溢れる。
嗚呼、今は。例え今だけだったとしても、必要とされているのだ。
これ以上に安心する事が何処にあるだろうか。

「ちょっと、不宮ー」
「あ、すいません!妾神奈川に呼ばれているのでもう行きますね!」
「ああ、分かったよ。じゃあ」

軽く手を振り乍、走り去る相手の背を見送る。
あの子は明るくて元気で、良い子だなあ、なんて。
そう思い乍、誤魔化し乍も矢張先程の任務の記憶が頭から離れない。

『やめろぉっ、頼む、妻と娘が待ってるんだ……!』
『ああ、痛い……母さん、父さん……』

次々に脳天を、心臓を、足を、腕を、体の至る所を槍で貫けば、新しい敵の元へと駆け出してしまえば、後ろから聞こえてくるのは恨めしそうな苦痛の声だけ。
ごめんなさい、ごめんなさい。弱い俺は何度も復唱する。壊れてしまわない様に復唱する。

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作者名:イル@初心者 | 作成日時:2016年2月29日 3時

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