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「…A」
細くて華奢だけれど私のよりもごつごつとした指がほっぺに優しく触れる。
透き通るような美しい瞳に捕らえられれば視線を逸らしてしまうのも無理はないはず。
なのに
「逸らさんと俺をちゃんと見て」
彼はそれは許さない。
優しい口調の彼の言うことを聞くように頷いたら、ゆっくりと彼の顔が近づいてくる。
あと少し。あと少しで触れてしまう。
触れたらきっと幸せか溢れて溶けてしまう。
…好き。大好きだからその先を知りたい。_____
「うっ…」
体が大きくびくついて目が覚める。
「うそでしょ…」
夢だったの？
まだぼんやりとする頭で状況を把握して溜め息がこぼれた。
そりゃそうか。夢だよね。現実なわけない。
「…あ〜」
目線を下げれば嫌でも視界に入る数学のテキストとノート。
委員会が終わる16時半まで図書館で勉強をして待っていようと思っていたのにいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
それにしてもなんて夢を見てしまったのだろう。
これから顔を合わせる相手だっていうのに。
…恥ずかしい。
時間を確認するためにスマホの画面を見ると16時25分。
「行かなきゃ」
何のために出したのか分からないノートたちを鞄に戻して図書館を後にする。
「なにこれ…」
歩きながら鞄のポケットから鏡を取り出し前髪を確認したら変な寝癖がついていた。
少しでいいから直そうと足を止めた。
その時だった。
「えー家行っちゃダメなの？」
「うん。ごめんね今日は」
どこからか話し声が聞こえてきたと思ったら、それは私が3年生の教室のすぐ側にいたからだった。
3-B
ここって…。
「ほらもう帰ろ」
「ちょっと待ってよショウ」
ガラガラ
そんな音とともに教室ドアが開かれ、中から二人の生徒が出てきた。
幸い二人は私が少し後ろに立っていることに気づいていないみたいだった。
「ねぇ〜ショウ？」
手を繋ぎながら歩く後ろ姿を見て私の口はぽっかりと空いてしまった。
「なに？ふふ」
あの二人は付き合っているのだろう。
動くことができず、二人を見るしかなかった。
けれど私は後悔した。
なぜなら、足を止めた男子生徒が隣の彼女と思われる女子生徒の頭にキスを落としたからだ。
見てはいけないものを見てしまった気分。
私は動揺して思わず足を後方に動かしてしまった。
キュっ、と上履きと床の擦れる音がした。
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作者名：來
| 作成日時：2021年8月5日 1時
