小悪魔の証明【qk】 (ページ30)

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手紙（sgi）ページ30

教室にやってきたA先輩は、興奮気味に俺を呼び出す。

こないだ貸したマンガが面白かったらしい。

野球部のマネージャーだった先輩は引退してしまったが、

こうやってたまにマンガを口実に会うことができている。

クラスの奴らの視線は、遠慮なく俺に注がれている。

本当はもっと長く、話したい。

休み時間なんて一瞬だ。

………もっと、話したい。

俺はその一言が言えず、先輩を見送る。

A先輩からマンガ入りの紙袋を受け取って、

冷やかしの声を背中に受けながら、のろのろと自分の席に座る。

ふと、紙袋の中を見遣ると。

小さく折り畳まれたメモが入っていた。

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メモにはたった一言。

『きょう、一緒に帰ろう』

と書かれていた。

……………いやいやいや。

俺、たまたまメモに気づいたけど。

家帰るまで、なんなら一生。気づかない可能性あったよね？

あとで知った時のことを思うと、身慄いした。

(俺、今年の運使い果たしたかも)

そのあとの授業の内容なんて1ミリも入ってこないまま。

帰る時間になっていた。

A先輩と帰ったことは、一度もない。

メモに待ち合わせ場所は書かれていなかった。

あのひとの性格からして、イタズラではないはず。

(待ち合わせ場所を書いていない時点で、そもそもこの内容が本気なのかも定かではないが。)

……なんとなく、

今日は部活が休みで誰もいないであろう野球部の部室に行ってみる。

『あれ、見つかった』

………うれしそうな声で。

もしかして不法侵入かなーとかなんとか言いながら、笑っている。

目が合うと、黙る、A先輩。

何か話さないと、と脳内をフル回転させたとき。

『………すき』

『…………へ、』

『その顔、いいね。

……きっと来てくれると思ったよ？』

『………俺は、すきなんてもんじゃないです。

だいすきです。』

差し出された手にそっと触れると、

体の内側から引っ掻かれたような感覚に陥り。

『……かえろ？』

こんな気持ちは、もう二度と味わえない。

………そんな気がした。

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『あとでメモに気づいて、焦る須貝くんも見たかったな』

『や、まじで泣いてましたよ俺』