誠也side ページ8
誠也side
ハイハットに合わせて歌い始めた。
ただ、Aの目を見て歌うことは出来ひんくて。
まあ…な？ 目が合ったら我慢できひんと思うから。
そのまま２番が終わった。
さすがにこのままじゃあかんのは分かっとる。
この歌を歌う意味がなくなるやん？Aに気持ちを伝えよう。
そう決心して落ちサビからAの方を向いた。
「〜人波の中で」
と歌いながらAを見ると目が合う。
その瞬間Aが驚いた顔をして演奏が止まる。
スティックを落としたみたいや。
でも気持ちを、歌詞を伝えたくて続きを歌い続けた。
サビの途中もAは驚いた顔をして動かへん。
最後の「〜ずっと色褪せぬように」を歌ったくらいでAが駆け寄ってきて一言。
A「なあ！どしたん？」
って言われて俺は「何が？」としか頭に浮かばんかった。
そしたら、少し驚いた顔をして
A「なんで泣いとるん？」
って聞いてきた。不思議に思いつつ頬を触ると結構濡れとる。
言われて気付くなんて自分でも驚きやわ。
思っとるより心が疲れたんやと自覚して、急に魂が抜けるような感覚になり座り込む。
Aが誰に相談した？って聞いてきたから「リチャ」とだけ言う。
ほんまはもっと話したいことあったけどなぜか上手く話されへんくて。
ボーッとしているうちにAは俺のスマホを持ってブースに入っていく。
たぶんリチャに電話を掛けるんやろな。
ああ、またリチャとAに迷惑かけてもうた…なんて頭は意外と冷静で。
Aがブースから出てくるまでに気持ちを落ち着かせようと深呼吸を繰り返した。
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作者名：鶴 | 作成日時：2023年7月2日 16時
