誠也side ページ7
誠也side
途中まではめちゃくちゃ楽しかったんよ。
ただ、Aから『オレンジ』を提案された瞬間その気持ちがスーっと消えてしもうて。
今までやったら普通に歌えてた。
でも今の心情であの歌詞をまともに歌えるわけない。
「〜『さよなら』といえば君の傷も少しは癒えるだろう？『あいたいよ』と泣いた声が今も胸に響いている」
これがサビの歌詞やろ？
もともとは卒業を期に離ればなれになる学生カップルの話やと思う。
でも今の俺にはそうは聞こえへんくて。
今俺があの事を話して「せやからバイバイなんよ」って言った方がAにとっては心の準備が出来るから傷付かへんはず。
それに、俺に会えへんことが分かったらAは「会いたい」って言うて泣くんちゃう？
そういう歌詞に聞こえてくんねん。
落ちサビなんか、今の俺らのことやん。
「人波の中でいつの日か偶然に出会えることがあるのならその日まで」
「偶然に」やで？意思で会われへん俺と全く一緒や。
「『さよなら』僕を今日まで支え続けてくれたひと『さよなら』今でも誰よりたいせつだと想えるひと」
これは俺にとってのA。
「そして何より二人がここで共に過ごしたこの日々をとなりに居てくれたことを僕は忘れはしないだろう」
ここだけは歌詞とちゃう。
俺は今日、絶対忘れてまうから。
その矛盾が辛くて、正直歌いたくはなかった。
でも、Aに気持ちを伝える最後のチャンスかな。なんて思いながら歌う準備をするとAも準備しだした。
Aは俺のこと分かっとるから、俺がここで折れへんのも分かったんやろうな。
面倒な性格の俺を理解して、上手く立ち回ってくれるAには感謝しかない。
よし！その気持ち、今から伝えたろ。
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作者名：鶴 | 作成日時：2023年7月2日 16時
